水原容疑者訴追、軽視できぬギャンブル依存症(2024年4月16日『日本経済新聞』-「社説」)

 
水原一平容疑者(右)の巨額賭博事件は依存症のリスクを浮き彫りにした(共同)

 米司法当局が、米大リーグの大谷翔平選手の通訳を務めてきた水原一平容疑者を訴追した。違法なスポーツ賭博で出た損失の穴埋めのため、大谷選手になりすましてお金を引き出すなどした銀行詐欺の疑いがもたれている。

 不正送金額は24億円超という。衝撃的な額だ。口座管理の実態などが今後精査されることになろう。裁判所に出廷した水原容疑者は大谷選手に謝罪したいとのコメントを出した。司法手続きにのっとり真摯に罪を償ってほしい。

 信頼を寄せる人物に裏切られた大谷選手の心情は察するにあまりある。当局は大谷選手については関与を示す証拠はなく、被害者だとしている。野球に専念できる環境が整うことを願いたい。

 米国では2018年に州の自治を重んじる連邦最高裁の司法判断が出たことで、スポーツ賭博を解禁する州が増えた。背景にあるのは水面下で野放図に広まるより、解禁した上で管理した方がいいとの考え方だ。税収増など経済効果への期待もある。スマホで手軽に賭けられ、若者を中心に裾野が広がっているという。

 問題はギャンブル依存症の危険性だ。脳内の快楽物質が絡む病気で、歯止めがかからなくなる、噓をついて借金を重ねる、経済的に破綻するといった恐れがある。

 水原容疑者も依存症を告白し、治療を受けることが保釈条件のひとつになった。賭け事が必ず依存症につながるわけではないにせよ、一定のリスクが改めて明らかになったといえる。

 厚生労働省の実態調査では成人の2.2%にギャンブル依存が疑われるとの推計もある。最近は海外のネットカジノを使った賭博行為を巡る検挙も相次いでいる。

 大阪の統合型リゾート(IR)では国内初のカジノが誕生する。日本でスポーツ賭博解禁を求める声もある。ギャンブルに関わる施策を議論する際は、依存症がもたらす社会的損失を決して軽視してはならない。啓発活動や治療体制もさらに充実させるべきだ。