賭博を禁じる命令は…(2024年4月13日『毎日新聞』-「余録」

記者会見に臨むドジャースの大谷翔平選手(右)の通訳を務めていた水原一平容疑者=ソウル市内の高尺スカイドームで3月16日、坂口裕彦撮影

記者会見に臨むドジャース大谷翔平選手(右)の通訳を務めていた水原一平容疑者=ソウル市内の高尺スカイドームで3月16日、坂口裕彦撮影

 賭博を禁じる命令は、最古級の歴史書日本書紀に早くも登場する。689年、持統天皇の代に「双六(すごろく)」が禁じられた。「あがり」までコマを進めるいまの双六と異なり、サイコロを2個使い盤上で競うゲームだった

▲規制にもかかわらず、双六遊びは続いた。平安後期に院政で権勢をふるった白河法皇は、自分の思い通りにならないことのひとつに「双六のさい」とサイコロの目を挙げている

▲1600万ドル(約24億5000万円)以上という、常軌を逸した金額に耳を疑う。米大リーグ・大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者による違法賭博疑惑が新展開をみた。大谷選手の銀行口座から借金返済のため不正送金したとして、米連邦検察当局は水原容疑者を刑事訴追した

▲検察側によると水原容疑者は大谷選手になりすまし、不正送金を重ねていたという。裁判に審判は委ねられるが、2年ほどの間に1万9000回もスポーツ賭博を繰り返し、損失の総額は60億円を超すと指摘された。「相棒」の背信に失望すると同時に、賭博の深みにはまった怖さにぞっとする

▲日本でも、ギャンブル依存症は深刻な問題だ。疑いがある人は成人の2・2%に及ぶ。若い世代を中心に、オンラインでの賭け事による依存症の増加が指摘されている

▲カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備が図られている。民営のスポーツ賭博の解禁を求める動きもある。危険な穴をなぜ、増やそうとするのか。決して遠い世界の話ではない「双六のさい」のリスクだ。