昭和の「突貫工事」労災多発17人死亡 大阪・関西万博では工期より安全優先(2024年4月13日)

 

現代において労働者の安全確保は最重要課題。今回の会場では3月28日に、地下から湧き出たガスが建設中のトイレ内にたまって爆発し、床などを破損する事故があった。けが人はなかったが、再発を防ぐため火器を使う工事は中断を余儀なくされている。また、これから台風シーズンに入れば、大阪湾に面する夢洲では労災のリスクも高まる。乗り越えなければならない壁は多い。

開幕前に工事を完了するのは理想ではあるが、工期を意識するあまり労災を招いては本末転倒だ。海外の大型イベントではこのあたりのバランスをどうしていたのか。

国内外の万博を研究する名古屋学院大の小林甲一教授によると、全パビリオンを日本側が手掛けた2005年愛知万博では会場内の工事は開幕までに完了していたとみられる。一方、その後の上海やミラノ、ドバイの万博では、開幕後も一部工事が続いていたという。

小林氏は、万博の会期が最長で半年間に及ぶことも踏まえれば「必ずしも開幕前に全ての工事を間に合わせなければいけないわけではない。むしろ完了するほうが珍しいのでは」と指摘した。

■プレハブ型「タイプX」活用カギ

万博の会場建設工事を巡っては、1970年大阪万博の当事者も工期順守と質の確保の両立に頭を悩ませた。「これからの建築はプレハブ化」。当時の記録にはこうした発言もみられる。2025年大阪・関西万博でも鍵を握るのはプレハブ型の「タイプX」パビリオンになりそうだ。

大阪万博の公式記録によると、開幕約1年前の1969年2月時点で約70の海外パビリオンのうち着工済みは18館。「手を打たないと、スムーズな建設は難しい」。当時の座談会で関係者は焦燥感をにじませていた。

もっとも約1年後の開幕直前の座談会では、工事は成功との評価で一致。その一因にプレハブ工法の採用が挙げられた。ある関係者は座談会で「これからの建築は省力化し、プレハブ化だということは、建築界の常識」と語っている。

今回のタイプXは、日本側が簡易な箱型の施設を建てて参加国に引き渡す形だが、現時点で対象国は2桁に満たない。

一般社団法人プレハブ建築協会(東京)は同工法の利点を「部材が規格化され、他の工法に比べて職人の技術に左右されることが少ない」と説明。「簡単に高品質の施工が実現でき、工期が短縮され、職人不足にも対応できる」としている。

粗野で質素なイメージが先行しがちなプレハブだが、「万博の華」といわれる海外パビリオンの主流工法となるか。(石橋明日佳)

■完成への過程楽しむ寛容さを 嘉名光市・大阪公立大教授(都市計画)

万博会場は既存の建物にはない考え方や、未来につながる建築のあり方を提示する場でもある。1970年大阪万博ではパビリオンなどにテントやプレハブが採用され、その後社会に普及した。2025年大阪・関西万博にも、そうした役割が期待される。

一方、限られた工期で独創的デザインの建設事業を受注することに二の足を踏む業者は少なくない。独自のパビリオンを手掛ける参加国は日本になじみの建設業者がいない上、日本の法律やルールに合わせて設計を見直すこともあり、民間パビリオンなどに比べて着工が遅れている。

開幕に間に合わせることを最優先にすれば、労災事故や施工ミスが起きかねない。開幕までに重機を使う工事が終わっていれば、来場者側には、パビリオンが完成するまでの過程を楽しむ寛容さがあってもいい。

会場建設を巡り、費用の上振れや工事の遅れなどに対して批判が出るのは健全なこと。主催者側が意義や理由を丁寧に説明し、対話を重ねてよりよい万博をつくり上げることが求められる。(聞き手 山本考志)

 

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