万博担当ゼネコン幹部が明かす「ギリギリ」の交渉とその舞台裏(2024年6月17日『毎日新聞』)

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整備が進む2025年大阪・関西万博の会場=大阪市此花区で2024年4月13日午前7時14分、本社ヘリから
 大阪・関西万博(4月13日~10月13日)の開幕まで17日で300日。「万博の華」と称される海外パビリオンの建設現場でも、懸命の作業が続く。参加国が自前で建設するタイプは6月13日現在、52カ国中31カ国が着工した。一方、12カ国は建設業者が未定のまま、万博を運営する日本国際博覧会協会が大型重機を使った工事の期限とする10月中旬が迫っている。
 
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 前田建設工業(東京都千代田区)はパソナグループなど民間2館のほか、中東の産油国カタールのパビリオンの施工も担う。本国との契約交渉や人件費・資材の高騰、建設業界の「働き方改革」との両立など、多くのハードルを乗り越えて工事を請け負った。
 ◇建設遅れに貢献を
 「建設が遅れている海外パビリオンに、少しでも貢献したかった。工期的にはギリギリだった」。前田建設工業の坂口伸也・常務執行役員関西支店長は、受注の経緯をそう明かした。坂口支店長は「ギリギリ」という言葉を繰り返しつつ、プロジェクトの成功に自信をみせる。
 同社はカタールの他にも数カ国と協議したという。しかし、働き方改革や物価上昇などがネックとなり、契約には至らなかった。
 契約に対する相手国との認識のズレも大きかったという。契約を履行できなかった場合に多額の違約金を課す国もあり、不確定要素が多かった。「ある程度先を見通せて、計画が順調に進めばいいのだが、今回は資材搬入がスムーズにいくかどうかも分からず、妥協(しての契約)はできなかった」と振り返った。
 ◇最後の打診で受注
 数カ国のうち最後に打診を受けたのがカタールだった。デザインは世界的建築家の隈研吾さんが担当。同社は過去にも隈さんがデザインした建築物を手がけた縁があった。
 海外パビリオンは、独創的なデザインの分だけ工期も長くなりがちだが、隈さんの設計は比較的シンプルだった。坂口支店長は「ギリギリ間に合ったが、仮に今、契約しても材料が手配できない」と話す。
 「カタールと日本はいずれも海に近く、長い歴史を持っているところが非常に似ている。2国間の友好を象徴したいと思った」。4月の起工式で、隈さんはこう語った。デザインは伝統的な帆船が海に浮かぶ姿をイメージした。工事の進捗(しんちょく)率は、6月上旬の段階で4・5%。内装も含めた完成予定は25年3月末という。
 ◇「2024年問題」どうクリア?
 万博の工事を巡っては、24年4月に建設業界でも残業規制が強化された「2024年問題」の影響が懸念されている。
 前田建設工業では、数年前から労務管理を徹底。現在は土日は休みにしており、大きな影響はないという。この点もカタールから理解を得られた。
 しかし、周辺には着工したばかりの現場もあり、鉄骨などの資材搬入が集中すれば、通路が渋滞する恐れがある。坂口支店長は「突貫工事になるから、作業員もすごい数になるだろう。渋滞もするだろうが、それも織り込み済みで工程を組んでいる」と語り、「ギリギリですが」と付け加えた。ただ、工事がピークを迎える夏場以降、混乱を避けるため、資材搬入を日中に集中させ、夜間に工事をする可能性もあるという。その場合は人員の確保も必要だ。
 ◇電気は発電機で、水は給水車で調達
 会場の夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)は水道や電気などのインフラが未整備で、建設工事には通常とは異なる苦労も伴う。照明や電源が必要な工具には発電機を使い、セメントをこねる水は給水車で運んでいる。坂口支店長は「大変なこともあるが、国家プロジェクトを成功させたいとの思いで取り組んでいる」と胸を張った。【鈴木拓也】