過去最高の気温は地球からの警鐘だ(2024年4月11日『日本経済新聞』-「社説」)

 
地球温暖化が進めば干ばつや熱波など異常気象が頻発すると危惧されている。干ばつによって干上がったメキシコ南部オアハカ州のダム(2024年3月)=AP
 

 地球温暖化の進行による影響は危機的状況にある。洪水や干ばつ、山火事など温暖化の影響とみられる災害が頻発し、人々の生活や経済基盤を脅かしている。各国の真剣な取り組みが急務だ。

 世界気象機関(WMO)によると、2023年の世界の平均気温は産業革命前よりも1.45度上昇し、観測史上最も暑かった。海の平均水温も過去最高となり、9割を超す海域で「海洋熱波」と呼ばれる異常現象が発生した。

 温暖化の影響に、異常気象を招く「エルニーニョ現象」が重なった。高い気温と水温は続き、WMOは「24年はさらに暑くなる恐れがある」と警鐘を鳴らした。

 温暖化対策の国際ルール「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げる。再生可能エネルギーは大きく伸びているが、需要に追いつかない。電気自動車の普及に勢いがなくなるなど、達成に向けた道筋は険しさを増す。

 現状のままでは気温上昇が今世紀末には3度近くに及ぶ。災害多発の未来を避けるには、エネルギーの安定供給を実現しつつ、脱・化石燃料を加速させるべきだ。

 二酸化炭素(CO2)が出ない再エネをできる限り拡大するのは当然だ。だが、一辺倒では苦しい。安全に配慮しつつ原子力発電を最大限活用する必要がある。

省エネルギーはまだ深掘りできる。建物の断熱性を高めるほか、少ない電力で動くヒートポンプ給湯器の導入を進めたい。欧米は政策展開を急いでおり、世界に取り組みを広げたい。

 再エネや原発で不足する分は、脱炭素対策を施した火力発電でまかなう必要がある。工場などから出るCO2を回収して地中に貯留する技術(CCS)も普及を急がねばならない。国際社会は持てる技術や手段を総動員すべきだ。

 足りないのは対策への投資だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、23年は1.8兆ドル(約270兆円)と大きく増えた。1.5度目標の実現には30年までに年4.5兆ドルにする必要がある。民間の投資や技術開発を促すよう、政府は効果的な財政支援やルールづくりを急ぐ必要がある。

 温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」が実現すれば、世界の温暖化はほぼ収まるとされる。脱炭素社会への道は平たんではないが、目指すべき道筋を見失ってはならない。