ガソリン補助また延長に関する社説・コラム(2024年4月6日)

ガソリン補助また延長 いつまで愚策続けるのか(2024年4月6日『毎日新聞』-「社説」)

 

最近のガソリン高は円安の影響が大きい=東京都千代田区で、中村琢磨撮影

最近のガソリン高は円安の影響が大きい=東京都千代田区で、中村琢磨撮影

 脱炭素に逆行し、費用対効果も疑わしい政策に、いつまで血税を投じるつもりなのか。岸田文雄首相の見識を疑う。

 政府が4月末を期限としていたガソリン補助制度を延長する。

 エネルギー価格高騰を受け2022年1月に一時的な「緊急避難措置」として導入された制度である。にもかかわらず、「出口」を見つけられないまま、7回目の延長となった。今回は期限も明示されていない。

 これまでに5兆円近くが投じられた。少子化対策に関わる年3・6兆円の追加予算の財源探しに苦労する中で、規模の大きさは突出している。

 一方で、昨年1月に始めた電気・都市ガス向け補助金は来月使用分で打ち切る。専門家の試算によると、家計の負担はガソリン補助がなくなるより重いという。

 斎藤健経済産業相は「国民生活や経済活動への影響を考慮した」と語るが、異なる対応となった理由を明確には説明していない。

 ガソリン補助のメリットは、車が生活の足である地方の方が大きい。内閣支持率が低迷する中、衆院解散時期を探る首相は、支持者離れを恐れて補助をやめられないのではないか。そうした疑念が拭えない。

 巨額の財政支出に見合う効果が上がっているかも判然としない。石油元売り会社に補助金を渡してガソリンスタンドの店頭価格を抑え込む手法が、どれだけ値下げにつながっているか不透明だ。会計検査院は、補助された分が「小売価格に反映されていない可能性がある」と指摘している。

 制度が導入された当初とはガソリン高の要因も変質した。ロシアのウクライナ侵攻後の原油高が一服する一方、約34年ぶりの円安の影響が強まっている。

 今の制度は富裕層や好業績の企業まで一律に恩恵が及ぶ。ガソリン消費を節約しようとの機運に水を差す。化石燃料依存が続くことで国の脱炭素方針とも矛盾する。

 株高や今春闘での高水準の賃上げなどを受け、首相は経済の好調ぶりをアピールする。そうならば、バラマキの側面が強い愚策をやめられるはずだ。物流コストの抑制や低所得層の支援に的を絞った対策に切り替える時である。

 

ガソリン補助金の出口を示せ(2024年4月6日『日本経済新聞』-「社説」)

 

燃料油への一律補助はすでに2年半近くも続いている(大阪市内の給油所)
 

 市場をゆがめる政府の介入をいつまで続けるつもりか。

 政府・与党はガソリンなど燃料の価格上昇を抑える補助金を5月以降も継続すると表明した。従来は4月末で終了するとしていた。延長は7度目だが、今回は新たな期限すら示していない。

 燃料補助金は財政負担が大きく、脱炭素の取り組みにも逆行する。物価高対策が不可欠なら、一律補助ではなく真に必要とする対象に支援先を絞り込むべきだと、私たちは何度も訴えてきた。出口戦略をきちんと明示すべきだ。

 補助金は2022年1月から石油元売り会社を通じて配り、現在は店頭価格を1リットルあたり175円程度に抑えている。補助金がなければ200円近くになる。

 当初は3カ月間の激変緩和措置だったが、資源価格の高騰や円安に伴う輸入コストの増加を理由にずるずると引き延ばしてきた。

 原油の国際市況は足元で一時1バレル90ドル超と5カ月半ぶりの水準まで上昇し、イスラエルとイランの対立激化など中東情勢も不透明感を増す。だが商品相場に浮き沈みはつきものだ。燃料補助のための財政支出は5兆円に迫っている。これでは持続性を欠く。

 併せて実施してきた電気・都市ガス料金への補助金は、予定通りに5月末で終了する。国民の誰もが使う電気・ガスへの補助を打ち切り、車を保有しない人には無関係なガソリンに関して続ける合理性はなおさら見いだしにくい。

 政治資金問題で岸田文雄政権は支持率が低迷し、早期の衆院解散・総選挙の観測も出ている。そんななかでの延長は、単なる人気取りとみられても仕方あるまい。

 燃料高が家計や企業活動に与える影響は確かに大きい。ならば低所得世帯や零細企業、農漁業従事者、物流事業者などとりわけ負担が重い層に支援対象を限定するよう、政策を転換する必要がある。

 日本経済はようやく賃金と物価の好循環が回り始めた。バラマキは控え、成長投資に財政支出を振り向けるのが政府の責務だ。