デジタル教材 偏向内容が入らぬ対応を(2024年4月11日『産経新聞』-「社説」)

 学校で使われる教材のデジタル化が急速に進んでいる。令和7年度から使用される中学校の教科書では、動画や音声など専用のデジタル教材にアクセスする2次元コード(QRコード)の掲載が大幅に増えた。

 デジタル教材は児童生徒の学習意欲を高め、学びを深めるメリットがある。先進各国でも教育現場で広く使われており、適切な内容であれば活用すべきだろう。

 一方、デジタル教材は「補助教材」であり、教科書検定の対象外だ。文部科学省によるチェックは限定的で、不正確な情報や偏向した内容が入り込む懸念もある。

 文科省は、教科書とリンクしたデジタル教材の長所を生かしつつ、その内容が適切か、確認する措置を講じてほしい。

 文科省の検定に合格し、7年度から使用される中学校の教科書のうち、9割以上がQRコードを掲載した。例えば1年英語の平均は83・3カ所で、現行版より1・7倍増加した。各教科全体で8倍以上も増やす教科書会社もあった。

 書写で筆の持ち方を動画で示すなど工夫された教材がある一方、作成が間に合わずにQRコードが空欄のまま合格した教科書も複数あった。

 QRコードの急増を受け、検定基準に「不適切であると客観的に明白でないこと」などの項目が追加された。しかし教科書会社の責任で管理し、文科省が厳密にチェックする仕組みにはなっていない。

 今回の検定で、東京電力福島第1原発の「処理済み汚染水」という記述に「生徒にとって理解し難い表現」との意見がつき、「汚染水を処理した水」に修正された例があるが、デジタル教材ではそうした修正がなされない心配がある。

 多種多様なデジタル教材に紙の教科書と同じ基準を課すのは現実的でないとしても、不正確な情報や偏向した内容が少しでも紛れ込んでいれば、使う教員や子供たちが困る。

 教材の質を保つためには、検定基準の見直しを含めた仕組みづくりが必要だろう。

 デジタル教材には、紙の教材に比べ読解力が身につきにくいとの指摘もある。教員は、デジタル教材の長所だけでなく短所にも留意し、指導にあたってほしい。