洋上風力発電 EEZ利用 課題も多い(2024年4月9日『北海道新聞』-「社説」)

日本で洋上風力発電が広まらないのはなぜ? 

 

 政府は洋上風力発電の設置海域を現行の領海内から排他的経済水域EEZ)にまで拡大する法改正案を今国会に提出した。
 海に囲まれた日本にとって洋上風力は脱炭素化の柱である。国は2040年までに最大4500万キロワット導入を目標とするが、領海内だけでは達成できないのが現状だ。
 EEZ拡大で道内は洋上風力発電量が全国の約3割に及ぶとの試算もある。国内外から大型計画が相次ぐ沿岸部とともに再生可能エネルギー拠点化の期待も大きい。
 とはいえEEZでは利害調整の対象も多く、関係者の協議は難しい。着床式と比べて海面に浮かべる浮体式は低コストの量産技術が進んでいないのもネックである。
 目標達成を急ぐあまりトラブルが生じないよう、透明性を確保し慎重に進めることが大切だ。
 EEZ拡大で対象面積は現在の10倍の約440万平方キロメートルに広がる。斎藤健経済産業相は「安定的に大規模案件を形成していきたい」と述べ推進方針を示した。
 法案では事業開始までに2段階の手続きをとる。設置場所として国が風況など条件の良い海域を「募集区域」に指定し、計画を提出した事業者に仮許可を出す。
 その後に漁業者ら利害関係者との協議で合意を得られれば、国が正式に許可する。洋上風力先進地である英国の方式を参考に丁寧なプロセスを踏むとしている。
 だが具体的な協議の進め方はこれからだ。沿岸漁業では漁業権を持つ漁協が利害関係者となるが、EEZでは漁業協定を結ぶ国の船もあり調整の範囲も複雑化する。
 風車はレーダーに干渉する恐れも指摘されており、防衛や航空管制への配慮も課題となろう。
 欧州では先に漁業や洋上風力、海運などの利用領域を決める海洋空間計画を作る例も多いという。計画策定の過程で市民も参画して合意形成を得る効果もあり、日本でも導入を図ってほしい。
 脱炭素化投資の資産運用特区を目指す札幌市や道はEEZ拡大を要望してきた。合意形成のモデルを積極的に提案する必要がある。
 洋上風力拡大には送電網増強も不可欠だ。国家プロジェクトで北海道と本州を結ぶ容量200万キロワットの日本海の海底送電線計画は、まだ基本要件案の段階であり完成には10年ほどかかるとされる。
 そもそも日本の再エネ比率は発電量で2割にとどまり、風力は陸上を含め1%ほどである。岸田文雄政権は原発回帰を転換し、再エネ主流化を明確にすべきだ。