苫小牧などで実証作業が進む、二酸化炭素(CO2)を地下に貯留するCCS技術について政府が事業推進の法案を国会に提出した。
2050年が目標の温室効果ガス実質ゼロ達成の切り札ともされ、あいまいだった試掘・貯留の許可や規制ルールを明確にした。
30年度までに事業を始め、年間でCO2国内排出量の約1%相当の1300万トン貯留を目指す。
経済産業省は昨年に支援対象の先進的事業7件を選んだが、中では苫小牧は有望視される。
再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」とCO2から合成燃料を製造する計画もあり、拠点形成への期待は大きい。
ただし貯留自体は脱炭素の抜本解決にならないとの声は多く、技術面も未知の部分がある。周辺環境への影響も含めて懸念は残る。
CCSはCO2に圧力をかけ、液体のような状態にして約千メートル超の地中に埋める技術だ。資源エネルギー庁によるとカナダやオーストラリアで事業化が進む。
苫小牧では出光興産(東京)と北海道電力、石油資源開発(東京)の3社が計画を進めている。
この地域では16~19年度に経産省が海底下で大規模な実証試験を行ったが、従来は環境省所管の海洋汚染防止法で海中のCO2濃度調査が義務づけられていた。
新法案は貯留に適した地層がありそうな区域を経産相が「特定区域」に指定し、許可を与えた事業者に試掘権や貯留権を設定する。
事業者にはCO2漏えいを確認するモニタリング義務があり、故意・過失にかかわらず損害賠償を負う「無過失責任」を求める。
厳しい規制とも言えるが、短期間で成果を出すためにトラブル発生をいとわぬ規定にも映る。
法案成立を見越し、10月には関西電力の舞鶴発電所(京都府)で液化したCO2を専用船で苫小牧に輸送する実証実験も始まる。
日程ありきでは不測の事態でも後戻りできまい。持続可能な技術確立のため慎重さを求めたい。
CCSは昨年12月開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で合意した「化石燃料からの脱却を加速させる」技術としても注目を集める。
一方で技術が本格導入できれば石油、石炭の化石燃料を使い続ける道が開ける。このため産油国が推進に熱心とされており、本来の脱炭素化とは裏腹な関係にある。
そもそも温室効果ガスを発生させないのが筋だ。政府は再エネ主力化の道を避けてはならない。