欧州原発回帰 有効活用は現実的な選択肢だ(2024年4月8日『読売新聞』-「社説」)

 欧州で、原子力発電への回帰傾向が強まっている。エネルギー安全保障と脱炭素を両立できる有力な選択肢である。日本も欧州の流れを参考に、原発の活用を推進すべきだ。

 欧州が主導し、原子力分野の国際協力を話し合う「原子力エネルギーサミット」の初会合がブリュッセルで開かれ、欧米諸国や日本など30か国以上が参加した。

 サミットに合わせフランスなど欧州12か国は、原発について「低コストで化石燃料に頼らず電力の需要増大に応えるものだ」と評価する首脳宣言を発表した。

 欧州では2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原発への不信感が高まり、ドイツは23年に全原発を閉鎖した。ただ、脱原発の動きは一部にとどまり、欧州全体には広がっていない。

 現実的なエネルギー源として、原発の重要性が再認識されているのは、自然な流れだろう。

 もともと欧州は、天然ガスなどのエネルギーをロシアに依存していた。ロシアのウクライナ侵略で欧州の天然ガス価格は急騰し、各国は調達に苦しんだ。エネルギー分野の「脱ロシア」を図るには原発の利用が有効になる。

 風力や太陽光などの再生可能エネルギーと同様、二酸化炭素(CO2)を排出しないことも大きなメリットだ。温暖化対策に注力している欧州として、原発を活用する意義は大きい。

 ベルギーはいったん原発廃止の方針を決めたが、代替電源を確保する見通しが立たず、2基の運転を35年まで延長する。スウェーデンは、運転する原子炉の数に関する制限を撤廃し、45年までに10基程度を新設するという。

 これまで原発を持っていなかったポーランドは、米国などの支援を受けて、官民で原発の導入計画を推進している。

 一方、日本も温暖化対策やエネルギー安保を重視する点で欧州と共通するものの、原発の再稼働は思うように進んでいない。動いている原発は西日本に偏っており、東日本には1基もない。

 政府は、東京電力柏崎刈羽原発の早期再稼働を目指しているが、新潟県知事の同意が得られておらず、めどは立っていない。政府と東電は、早期に地元の理解が得られるよう最善を尽くすべきだ。

 長期的には、原発の新増設も不可欠だろう。国が原発の必要性について国民に説明するとともに、安全性の高い次世代原発の技術開発や、原発に関係する人材の育成などに努めねばならない。