一極集中と少子化 韓国の教訓踏まえ対策を(2024年4月10日『山陽新聞』-「社説」)

 
一極集中と少子化 韓国の教訓踏まえ対策を
 
 
 衝撃的な数字と言えるだろう。韓国で、女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が、2023年は0・72となった。世界でも類を見ないほどの急速な少子化が進んでいる。

 既に世界最低水準だった22年の0・78をさらに下回り、過去最低を更新して8年連続の前年割れだ。1を下回るのは、経済協力開発機構OECD)加盟国の中でも唯一で、日本の1・26(22年)と比べても著しく低い。生まれた赤ちゃんの数は8年間でほぼ半減している。

 韓国政府は06~21年に出産・育児支援などに計約280兆ウォン(約31兆円)を投入してきたものの、成果が上がっていない。もっと別の要素が求められるということだろう。

 韓国銀行(中央銀行)は昨年11月公表の報告書で、ソウル首都圏一極集中や非正規雇用の増加が招く過度な競争圧力が、若者の結婚や出産を遠ざけていると分析した。

 韓国では、首都圏が人口の半分を占め、就職口の大半が集まっている。ソウルの有名大学から大企業に入るのが人生の成功パターンと考える価値観が根強いという。研究者からも「ソウルへの一極集中が競争激化を招いている」との指摘がある。

 22年には20代の若者約6万4千人が流入した。住宅価格は高騰し、学歴社会を勝ち抜くために子どもの学習塾費用などの教育費も高額になる。経済的な不安などから、若者が結婚・出産をためらっているという。ソウルの合計特殊出生率は0・55と低い。もちろん、男性優位の保守的な社会が残るといった他の側面もあるが、一極集中とそれを生む社会構造が少子化と関わりが深いことは確かだろう。

 気になるのは、日本でも東京一極集中が顕著なことだ。国土交通省によると、日本の総人口のうち首都圏人口の割合は約3割をも占める。首都圏の人口比率が高く、かつ上昇を続ける国は日本の他には韓国だけという。国際的に見て両国は異常だ。

 日本でも、通勤時間の長さや家賃の高さなどで子育てしにくく出生率が低い東京が地方から若者を集めることで、少子化に拍車がかかる懸念は指摘されてきた。昨今、東京の住宅価格は高騰が著しい。内閣府の日本経済リポートは2月、より狭い物件に住む傾向が強まっていて「2人目、3人目」の子どもをあきらめる可能性を指摘した。

 韓国の教訓も踏まえ、東京一極集中是正を少子化対策としても位置づけるべきだ。優遇税制で企業の地方分散を図るといった抜本的で強い対策が急がれる。