加速する少子化/構造的な問題を直視せよ(2024年3月21日『神戸新聞』-「社説」)

 少子化のスピードが一段と速まった。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に生まれた赤ちゃんの数は、速報値で75万8631人だった。初めて80万人を割った前年からさらに5・1%減り、過去最少を更新した。減少のペースは国の想定より10年以上も早い。

 速報値には、外国人や海外に住む日本人などの数が含まれる。今後発表する日本人だけの出生数は、70万人台前半に落ち込むことがほぼ確実視されている。

 兵庫県は前年比860人減の3万4019人で、県の目標値4万4千人に届かなかった。

 全国の婚姻数も減少し、戦後初めて50万組を下回った。日本では婚外子が少なく、婚姻数が数年後の出生数にほぼ直結する。少子化のさらなる加速は避けられまい。


 若い世代にとって、結婚や出産、育児への希望や安心感を持ちにくい社会になっている表れだ。

 家庭を築くかどうかは、個人の選択である。しかし、望みながらも経済的な理由などで二の足を踏むような状況は、改めるべきだ。何が「障壁」になっているかを見極め、制度のみならず、社会全体の意識を変革する覚悟が求められる。

 政府は「若年人口が急減する30年までが少子化反転のラストチャンス」と強調する。対策として、児童手当の所得制限撤廃や、公的医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」の創設などを柱とした関連法案を国会に提出した。

 本来なら、少子化の背景にある構造的な問題に切り込む好機のはずである。しかし、岸田文雄首相が支援金について「実質的な負担はゼロ」との説明に固執するため、世論の反発すら招いている。議論が深まっていないのは極めて残念だ。

 所得の低い人たちの間で結婚や出産をためらう傾向が目立つ、というデータがある。若い世代が将来展望を描けるよう、雇用や収入の安定が欠かせない。少子化対策には賃上げや非正規雇用者の正規雇用化も盛り込まれた。着実に進めてほしい。

 若者の意識の変化にもしっかりと目を向けたい。21年の出生動向基本調査では、独身女性のうち「仕事と子育ての両立が理想」との回答が初めて最多となった。独身男性もパートナーに両立を望む人が増えた。「共働きで育児も共に」というライフスタイルを実現しやすい社会にする必要がある。

 長時間労働の是正や、女性に偏る家事、育児負担の見直しは必須だ。「男は仕事、女は家庭」という旧態依然の役割分担意識が、少子化や地方からの女性流出の要因になっている現状を直視せねばならない。