「巳」の節句(2024年3月3日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 旧暦3月3日の桃の節句は、かつて上巳(じょうし)の節句といった。この月最初の巳(み)の日に厄災をはらう行事として中国より伝わり、いつしか女の子の健やかな成長を願うようになった

▼同じ文化圏ということだろう。お隣韓国でも上巳を祝うようだ。ただ、こちらは女児と関係なく、ツバメが巣作りを始める日、ヘビが冬眠から目覚める日、などと呼んで春をことほぐ

▼その韓国でゆゆしき事態である。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数が激減し、最新の統計で0・72となった。実際に生まれた赤ちゃんも8年間でほぼ半減。世界に類を見ない「超少子化」にあえぐ

▼要因はこうだ。首都ソウルへの一極集中が進み、非正規雇用が増えたり住宅価格が高騰したりした。いい仕事に就くには、とにかく有名大学へ。若者たちは過剰な競争に追われ続け、伴侶や子どもを持つ余裕をなくしている

▼程度の差はあれ、若い世代が将来、子どもにかかる教育費を不安がる傾向は日本とも重なる。男性優位の社会構造が残る点でも日韓は似る。女性にとって結婚や出産は「生きづらさ」や「負担」が増す恐れもはらむという

▼最も子どもが生まれない国、韓国と最も高齢化が進む国、日本。きょうは新暦だけれど、脱皮を繰り返すことから強い生命力の象徴とされる「巳」の節句にあやかりたい気持ちになる。

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