出生・婚姻減を招く社会構造に切り込め(2024年2月29日『日本経済新聞』-「社説」)

出生数は過去最少の75万人台にとどまった


 将来に明るい展望が持てないことの表れだろう。政府や企業は、家族を持つことを難しくしている社会の構造的な問題にもっと切り込み、対策を急ぐべきだ。

 厚生労働省によると、2023年の出生数(速報値、外国人を含む)は前年比5.1%減の75万8631人で、過去最少を更新した。政府の将来推計では75万人台は35年のはずだった。少子化のペースは想定以上に速い。

 婚姻数は5.9%減の48万9281組だった。50万組割れは90年ぶりだ。婚外子が少ない日本では今後の出生数の動向に直結する。

 少子化を招く要因のひとつが、いまの雇用・労働慣行だ。いったん非正規になると、正規への転換などがしにくく、正規と非正規の格差も大きい。これらが若い世代の経済的な不安を高め、結婚から遠ざけている。

 昨年12月に政府が決定した「こども未来戦略」は若い世代の所得向上を掲げた。賃上げや処遇改善、能力開発、円滑な労働移動などに官民あげて取り組むべきだ。

 子育てに時間を割きにくい正社員の働き方そのものも見直すべきだ。いくら育休や時短勤務制度を手厚くしても、長時間労働が前提ではキャリアとの両立は難しい。先進国のなかで飛び抜けて女性に偏る家事・育児負担も問題だ。

 いずれも長年、少子化対策として取り組むと掲げられながら実効性を伴っていない。この間、親となる世代の数は大きく減った。若い世代の諦めが広がれば、いくら児童手当やサービスを拡充しても効果が出にくくなる。

 隣の韓国では23年の合計特殊出生率が0.72と過去最低を更新した。日本の1.26(22年)も大きく下回る世界最低水準だ。子育て負担の増加や高い住宅価格、若者の将来不安などから、結婚や出産をためらったり、そもそも望まなかったりする人が増えている。

 少子化対策に手詰まり感が強まるなかで韓国政府は外国人労働者の定着・永住にも力を入れている。受け入れ枠の計画をはじめ、求人、企業とのマッチング、手厚い語学教育など政府主導による住みやすい環境づくりで日本の先を行く。こうした取り組みも参考になるはずだ。

 急激な人口減は、社会や経済の活力を奪い、地域の維持も難しくする。政府は子育て支援にとどまらない、総合的な対策に向けて議論を深めるときだ。

 

うるう日は「さぼる日」(2024年2月29日『中国新聞』-「天風録」)

 きょうは4年に1度のうるう日。コピーライター糸井重里さんはこの日を「さぼる日」にしようと提唱してきた。実際の季節と暦のずれを調節するため、世界で採用されている2月29日。それをおまけみたいな一日と捉え、サボろうと

▲糸井さんらしいユニークな呼びかけだ。映画を見たり、遠出をしたり…。糸井さんや事務所のスタッフは4年ごとに堂々とサボる。うらやましい「風習」ながら採用した会社を聞かない。踏み切れる人はいるだろうか

▲大体、人手不足の世の中である。大勢が仕事をサボれば、社会が機能しなくなる。交通、医療、教育などが大混乱してしまう。そんな心配をせず、サボれる日はこの先も訪れそうにない。何しろ人口がどんどん減っているのだから

▲昨年生まれた赤ちゃんは過去最少の約75万8千人。政府想定より12年も早いペースで減っている。結婚したカップルが50万組を割ったのは90年ぶり。賃金上昇や男女の格差是正が進まず、結婚や出産に踏み切れないか

▲「異次元の少子化対策」も子どものいる世帯向けが中心で期待感は薄い。雇用改革をはじめ、社会の仕組みを変える努力が求められる。こちらは一日たりともサボれない。

 

【婚姻50万組割れ】独身者向け施策は十分か(2024年2月29日『高知新聞』-「社説」)

 

 少子化に歯止めがかからない。国内で2023年に生まれた赤ちゃん(出生数)は75万8631人で、初めて80万人を割った22年からさらに5%余りも減ったことが、人口動態統計(速報値)で分かった。
 少子化が地域社会、地域経済に与えるマイナスの影響の大きさは言わずもがなだ。その減少ペースは、国立社会保障・人口問題研究所による将来推計より12年も早く進む。危機的な状況だといってよい。
 岸田政権は「次元の異なる少子化対策」を打ち出し、それを盛り込んだ少子化対策関連法案を今国会に提出している。速やかに施策を展開し、実効性にこだわっていく必要がある。
 少子化の主な要因の一つには婚姻数の減少がある。婚姻数が減ると数年後の出生数が減ることは統計的にはっきりしている。新型コロナウイルスの流行で結婚控えの動きが広がった20年、婚姻数は前年比12%減の53万7500組になった。21年もさらに4%減り、ここ数年の出生数減につながったとの見方ができる。
 22年こそ持ち直したものの、23年の婚姻数は5・9%減の48万9281組となり、戦後初めて50万組を割った。向こう数年の出生数の見通しは、極めて厳しいと言わざるをえないだろう。
 結婚・出産適齢期とされる世代の人口の厚みがあるうちに少子化の流れを変えなければ、状況の悪化は加速度的になる。
 多様な生き方が尊重される時代にあって婚姻率を上げる方法は限られるが、内閣府の調査では未婚の20~40代の男女の7割以上が結婚を希望しているとされる。こうした層を念頭に置いた今後6、7年間の未婚化対策が重みを増す。優先的に対応していくべきだ。
 未婚化や妊娠控えは、20年以降は新型コロナ禍による生活不安が直接的な要因となったが、そもそもは若年層に広がる低所得や不安定雇用が招いてきた。各種世論調査では、年収が低い、あるいは非正規雇用であるほど未婚率は高いとの結果が出ている。若年層が将来を展望できる賃金、雇用制度づくりが急務だ。
 結婚や出産を望まない女性への調査では、理由に家事・子育ての負担が挙がる。出産や子育てがキャリア形成、自己実現の障壁になりがちな状況を変える必要がある。その観点から、男性の育児休業の普及、家事・育児の役割分担などへ制度整備が進み、啓発もされるが、男性の育休期間が短いなど効果はまだ限られる。一層の浸透が求められる。
 岸田政権の少子化対策は、最大で年3兆6千億円を投じる規模感などから「異次元」とアピールする。しかし、これまでに講じてきた少子化対策を検証したようには見えず、児童手当の拡充など、既に子どもがいる人向けの支援が中心になっていることは否めない。
 結婚したいのにできない。そのような若い世代の独身者に施策は届いているか。検証し、必要に応じて強化していく必要がある。