働き方と花見(2024年4月8日『中国新聞』-「天風録」)

 楽しみにしていたNHKの新番組が始まった。「新プロジェクトX」は困難に挑む日本人の姿を追う平成の人気シリーズの復活だ。初回は高さ634メートルの東京スカイツリーの建設が舞台。花見が成功の鍵とは知らなかった

世界一の電波塔を3年半で築く至難の工事。ゼネコンは下請け会社を3グループに分け、工程を組む。現場の進捗(しんちょく)のずれと各社の不協和音が生じる中、とび職たちは桜の下で酒を酌み交わして心を一つにしたのだ、と

▲15歳でとびの道へ飛び込み、努力を重ねて世界一の現場に立つ職人の苦労など泣かせる逸話が満載。日本の底力はすごいぞと掛け値なしに拍手を送っただろう。工期は絶対で少々の無理はやむなしとされた時代までは

スカイツリー完成の偉業は誇りたい。とはいえ今ならどうか。建設業で時間外労働の上限規制が始まり、どのプロジェクトも工事の長期化が予想される。何より生身の現場へのリスペクトがこれまで以上に欠かせない

▲仕事の団結を花の下で―。これも昔の風景だろうか。コロナ禍を経て職場の花見は確かに減った。働き方も桜の楽しみ方も令和の流儀があっていい。平和記念公園を歩くと満開の桜が迎えてくれた。