強まる中止、延期、縮小の声…それでも突貫工事の大阪・関西万博 能登復興に影響は? 業界と政府に認識ズレ(2024年3月10日『東京新聞』)

 
 2025年大阪・関西万博の開幕まで400日を切り、会場予定地では突貫工事が続く。だが、会場整備が能登半島地震の復旧・復興に支障を来す懸念もあり、世論調査で中止や延期、規模縮小が必要だとする意見は7割を超える。政府は、復興への悪影響は確認されないとして計画変更を否定するが、有識者や業界関係者からは被災地で資材や人員の不足を心配する声が上がる。(大野暢子、写真も)

◆シンボル「リング」内側は大部分が更地のまま

大阪・関西万博の会場建設が進む大阪湾の人工島・夢洲。万博のシンボルとなる木造の大屋根(リング)の建築が佳境を迎えていた=大阪市此花区で

大阪・関西万博の会場建設が進む大阪湾の人工島・夢洲。万博のシンボルとなる木造の大屋根(リング)の建築が佳境を迎えていた=大阪市此花区

 万博会場を建設する大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)が報道陣らに公開された4日午後、大型トラックやタンクローリーが、土ぼこりを上げながらひっきりなしに往来していた。万博のシンボルとしてパビリオンを取り囲むように木造の大屋根(リング)がそびえ立つ。日本国際博覧会協会の担当者は「リングは約6割が完成した」と工事の進捗(しんちょく)を強調したが、パビリオン建設は遅れ、内側は大部分が更地のままだった。
 
万博の「シンボル」として建築が進む木造の大屋根(リング)=大阪市此花区で

万博の「シンボル」として建築が進む木造の大屋根(リング)=大阪市此花区

 今後、万博関連の工事が集中すれば、同時期に本格化する震災復興があおりを受ける恐れがあるが、内閣官房の担当者は「基礎工事はほぼ終わり、パビリオンなどの工事に移っている段階」と被災地への影響を否定。経済産業省も「ゼネコンや石川県からは、万博のために被災地で資材不足が起きているとは聞いていない」との立場だ。

◆資材は既に需給が逼迫、人手不足も

 実際はどうか。日本建設業連合会の2月末の発表では、一部のセメントや高圧ケーブルなど30超の資材・設備で需給が逼迫(ひっぱく)、各地で納期に遅れを来している。業界の労務需給などを調査する経済調査会の担当者は「インフラを手がける工事で全国的に人が足りていない。首都圏の再開発ラッシュなど複合的な背景があるが、万博も一因と考えられる」と分析する。
 
大阪・関西万博の会場建設が進む大阪湾の人工島・夢洲

大阪・関西万博の会場建設が進む大阪湾の人工島・夢洲

 有効求人倍率は1月時点で土木作業従事者が6倍超、建築物の骨組み工事の従事者は約9倍。残業規制が強化される4月以降、人員の争奪戦は激化が確実だ。
 建築エコノミストの森山高至氏は「建築資材の需要が増す時期が万博と被災地で重なる恐れがある。資材や人材に限りがある中、万博が復興に影響しないとの政府の説明は説得力を欠く」と指摘。能登半島仮設住宅の建設に携わる関係者は「資材不足で工事開始が遅れるなど復興は順調とは言えない。家を失った人がいる中、大量の資材や人を使う万博には複雑な思いがある」と胸の内を明かす。
 復興への影響を不安視する見方は根強いが、政府は予定通り開催する方針を変えない。名古屋市立大の山田明名誉教授(地方財政論)は「05年の愛・地球博は、主会場の変更や宅地計画の見直しを通じ、費用や環境負荷の低減を目指した。被災地に影響が出ぬように、今回も延期や規模縮小を検討すべきだ」と話した。

 大阪・関西万博と能登半島地震 高市早苗経済安全保障担当相は1月、「資材や人手不足で大変な状況なので万博を延期した方がよい」とゼネコン関係者から聞いたとして、復興を優先するため万博延期を岸田文雄首相に進言。首相は万博が被災地の復旧・復興を妨げないよう計画的に資材調達を進めることを斎藤健経済産業相に指示した。2月の国会で「復興に具体的な支障が生じるとの情報には接していない」と述べ、延期や中止の必要はないとした。共同通信が実施した2月の世論調査では、復興を優先して万博を「延期するべきだ」が27.0%、「時期は変えず規模を縮小するべきだ」が26.7%、「中止するべきだ」が17.6%だった。