空き家の犯罪利用 新たな手口出現、警戒必要(2024年4月8日『河北新報』-「社説」)

 全国で増え続ける空き家。空き家を利用した新たな犯罪が確認されている。詐取金や不正薬物の送付先に空き家が使われる事案だ。倒壊などの危険を回避するために空き家を減らす取り組みが進められているが、犯罪抑止の面でも対応が求められている。

 空き家と犯罪の結びつきについては、これまでも指摘されてきた。人がいないことから放火の対象になりやすかったり、不法占拠された上で大麻などが栽培されたりするケースもあった。

 今、増えているのは、詐欺被害者に書類などの名目で空き家宛てに現金を宅配便で送金させる「現金送付型」と呼ばれる特殊詐欺。受け子が、部屋で住人を装って荷物を受け取る手口だ。

 引き出し上限のあるATMを使うのとは異なり、一度に多額の現金が入ることになり、詐欺を「効率化」させる。

 警察庁によると、同型詐欺の2023年の認知件数は前年比117件増の436件、被害額は同9億7000万円増の48億2000万円に上った。

 さらに、空き家情報を悪用して銀行口座を不正に開設し、犯罪に利用されるケースも出ている。空き家の住所をひも付けた架空の人物名義の身分証を偽造し、銀行口座を開設するというものだ。

 長期にわたって不在の住宅などは統計上「その他空き家」に分類される。2018年には空き家総数が849万戸に対し、その他空き家は349万戸と過去20年間で2倍近くに増えた。住宅全体の5・6%。国土交通省は、積極的な活用や処分が講じられなければ、30年には470万戸に上るとの推計を出している。

 ただ、新たな犯罪利用への警戒は、十分とはいえないようだ。国交省が19年に実施した空き家所有者の実態調査によると、管理者の心配事(複数回答)をみると、「腐朽・破損の進行」が58・0%と最も多く、次いで「樹木・雑草の繁茂」の41・9%。「不審者の侵入や放火」は32・1%と3番目にとどまる一方、「心配事はない」が20・5%に上った。

 空き家の増加は、中山間地域に限ったことではない。空き家対策に取り組む自治体からは、むしろ市街地や住宅密集地で広がっているとの報告もある。犯罪に利用されることで不動産価値が著しく下がるなどし、空き家の解消がさらに難しくなるといった悪循環を生み出しかねない。

 空き家対策特別措置法に基づく倒壊などの危険性がある家屋の処分や修繕、新たな活用法や入居者を見つけるといった従来の空き家対策と並行し、社会情勢に見合った新たな対応策が急務だ。犯罪利用が明らかになった物件については、捜査機関と自治体、空き家対策に取り組む団体などが素早く連携し、再発を防ぐための手だてを早急に講じる必要があるのではないか。