信州の山村留学 「互恵」の関係を広げたい(2024年4月8日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 山村留学は、子どもばかりか地域も豊かにしてくれる信州発祥の教育、交流の文化である。さらに充実させていく一助にしたい。 受け入れ団体や県、市町村でつくる信州自然留学推進協議会が、留学参加の目安にしてもらう指針作りを進めている。

 山村留学は、主に都会の子らが1年以上にわたり、農山村の寄宿舎で共同生活をしたり、受け入れ家庭で暮らしたりしながら地元の学校に通う取り組みだ。

 長期間、それまでと全く異なる環境に子どもを送り出す親の心理的なハードルは高い。

 教育方針に複数の目が入っているか、経験豊富な指導員はいるか、行政や地元との連携は、近隣に医療機関は、生活空間の男女等の区分けは…。そうした観点を比較できるよう、指針では、各団体の受け入れ態勢や取り組みを一覧公開する。安心して留学先を選んでもらう狙いがある。

 目を引くのは「環境に配慮した取り組み」のアピールだ。

 荒廃農地の復活や森づくり、健康的な食料生産、薪炭利用の暮らしなどを取り込んだ多彩なメニューが並ぶ。便利な社会から少し距離をおき、自然とともにある生活体験を重視する信州ならではの価値の発信といえるだろう。

 山村留学は1976年、全国に先駆けて旧八坂村大町市)で始まった。今では自治体や財団法人、NPO法人など県内17団体が小中学生を受け入れている。

 昨年度は関西、首都圏などから約180人が参加した。新型コロナに伴う地方回帰の流れもあって増えているという。

 親が一緒に移住する親子留学も裾野を広げる。2015年度に北相木村が始めてから10団体にまで増えてきた。移住・定住策としての期待が高まっている。

 高校進学を考えて続けるか悩む親子もいることから、学習支援に乗り出す自治体も出てきた。本来の趣旨を大切にしつつ、ニーズに対応する必要もあるだろう。

 山村留学の効果は、子どもの生きる力、情操を育むといった教育面にとどまらない。地域によっては、学校の児童生徒の過半を留学生が占めるなど活力の維持に貢献している。成人して“帰郷”し、仕事を興すOB、OGもいる。棚田の保全、祭礼参加といった交流も各地で続く。

 人口減少の時代に、細くとも末長く暮らしていける地域を考える上での一つの光明となる。都市と農山村が共に歩む「互恵」の関係づくりをさらに広げたい。

 

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