食品ロス削減 関係機関の連携強めて(2024年3月25日『山形新聞』-「社説」)

 食料品を扱う店の商品棚に、「手前から取ってください」という表示を見かけるようになってから久しい。まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」を減らす動きが県内でも進んでいる。その理由は「もったいない」という言葉に尽きるだろう。生産に要したエネルギーや労働力、材料となった動植物の命は無駄になり、廃棄食品の焼却処理に伴って費用や環境への負荷が生じる。売る側、購入する側とも削減意識を高め、持続可能でより倫理的な暮らしに近づきたい。

 全国のスーパーなどで、賞味・消費期限が近い値引き商品に貼られた専用シールを購入者に集めてもらい、その数に応じて特典を還元したりする取り組み「もぐもぐチャレンジ」が広がっている。狙いは食品ロスの削減だ。

 このプログラムは、スーパーのPR動画製作などを手掛ける高知市マーケティング会社アッシェが各地のスーパーと共に2019年2月から展開、現在は16法人、約320店舗が参加している。

 本県では、山辺、河北両町に店舗を構えるサンエーが21年に初めて参画。昨年10月からはヤマザワが2店舗で実践している。いずれも、規定の枚数をためるとカプセルに入った商品券などが当たる「ガチャ」に挑戦できる。

 今月から導入した寒河江市のフードセンターたかき元町店では、集めたシールをお金に換算し、市内の子ども食堂営団体に寄付する仕組みを採用した。買い物客が間接的に地域福祉の充実にも貢献できる利点がある。

 アッシェがこのプログラムを始めたのは、全国的な関心を集めた恵方巻きの大量廃棄問題を通し、スーパーにおける食品ロスの存在を知ったことがきっかけだったという。連日多くの来店客が訪れるスーパーで、食品ロスを自身の問題と捉え、気軽に参加可能な活動ができれば、一過性のものでなく、大きな効果につながると考えた。その際、大切にしたのは店舗スタッフも来店客も楽しめる内容にすること。オリジナルキャラクターをデザインしたシールを集める方式とし、地元スーパーに提案した。その結果、ファミリー層から好評を得て参加店が拡大した。プログラムの対象を明確にしたことが奏功したと言えるだろう。

 消費者庁によると、21年度の推計値で国内の食品ロスは523万トンとされる。国民一人一人が毎日おにぎり1個分を捨てている計算だ。国連世界食糧計画WFP)による食料支援量の1.2倍に当たると知れば、対策の重要さが分かろう。ロスの内訳は事業系が53%、家庭系が47%となっており、事業所、家庭双方の削減の取り組みが欠かせない。スーパーと来店客が連携したアッシェのプログラムは時宜を得ているのではないか。

 食品ロスを巡っては継続的な取り組みが不可欠で、次世代に意識をつなげる必要がある。東北公益文科大の学生有志団体Liga(リーガ)は、家庭で余った食材などを集めるフードドライブや、子どもたちへの出前授業を行っている。こうした若者の活動を促し、地域で支えることも自治体や事業所の責務だろう。食品の提供者と、必要とする人を効率的につなぐためにも、関係機関の連携を強めたい。