能登の被災地の子に息長い支援を(2024年3月15日『日本経済新聞』-「社説」)

石川県珠洲市で開かれた小学校の卒業式(14日)=共同


 能登半島地震の被災地が卒業式のシーズンを迎えている。不自由な暮らしが続くなか、進学や進級を控えて不安を感じている子どもは少なくないだろう。

 地震のショックや避難生活のストレスなどで、これから心身の不調を訴える子どもが増える可能性がある。長期的な目配りと支えが必要だ。

 石川県教育委員会によると、県内の公立小中学校は2月上旬までにすべて再開した。だが校舎が損壊したり、避難所になったりして他校に間借りしている学校がある。集団避難や自主避難で地元を離れた子どもも多い。平穏な学校生活にはほど遠い状況だ。

 災害で教育格差が生じることは防がねばならない。オンライン学習の活用や民間団体の協力など、学びの機会を確保するために知恵を絞りたい。授業料の減免や奨学金といった経済的支援も、生活再建の状況を踏まえたきめ細かな対応が求められる。

 学習面に限らない。突然の災禍で多くの子どもが心に傷を負った。「突然涙があふれる」「当時の映像や緊急アラームで気分が悪くなる」。時間がたってこうした症状が出ることは珍しくない。

 東日本大震災の翌年に文部科学省が被災地で行った調査によると、幼稚園児から高校生の14%に心的外傷後ストレス障害PTSD)と疑われる症状がみられた。2016年の熊本地震でも、20年時点で千人を超える児童生徒がスクールカウンセラーのケアが必要とされた。

 不安や不満を口にできず、我慢を強いられている子どもは多いだろう。周囲の大人が注意深く見守り、わずかなSOSのサインに気づく必要がある。過去の災害で培ったノウハウが参考になる。

 教職員のケアも忘れてはならない。自ら被災しながら教壇に立つ負担は相当に重い。地震後、県外から学校支援チームが駆けつけ、被災地の学校運営を支えている。こうした取り組みも継続していきたい。