国産旅客機再挑戦 教訓生かし新産業創出を(2024年4月8日『山陽新聞』-「社説」)

 国産旅客機を開発するプロジェクトが再び動き出そうとしている。三菱重工業による国産初の小型ジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)の開発が頓挫した教訓を生かし、改めて新産業の創出を目指したい。

 経済産業省が先月開いた有識者会議で、2035年以降をめどとする旅客機開発の新たな戦略を策定した。1社単独ではなく、複数社による開発を想定する。航空業界が50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げているのを踏まえ、水素や電気などを動力とする次世代機の開発を目指す。今後約10年にわたり官民で5兆円程度を投資して国内に最終組立工場を設け、整備拠点を拡充する。

 日本企業は航空機部品の供給で一定の地位を得ているが、1月に米ボーイング機の胴体部品が吹き飛ぶ事故が起きた影響で受注が減少するなど、納入先の動向に左右されやすい構造にある。機体やエンジン、装備品など幅広い分野で日本の技術を結集し、安定して国内生産できる体制をつくる考えだ。

 旧MRJの経験を通じて、旅客機を独自に開発するには、極めて高いハードルがあることが分かった。三菱重工は08年に事業化を決定し、国から約500億円の支援を受けたが、納期を6回延長した末に、昨年2月に撤退に追い込まれた。

 つまずいた最大の要因は、各国での商業運航に必要な「型式証明」を取得するめどが立たなかったことだ。旅客機は安全であることが絶対の条件であり、型式証明の要求は厳しい。旧MRJの開発陣は試験飛行レベルの機体を造り上げたものの、要求内容への理解が不十分で、何度も設計変更を余儀なくされた。反省を生かさねばならない。

 開発が遅れたことで、旧MRJに採用する予定だった技術が陳腐化したことも失敗の一因となった。同じ仕様で長年生産を続ける航空機産業では、市場投入の段階で最新の技術を詰め込むことが成功の鍵となる。環境負荷の少ない次世代機が求められる今は新規参入の好機であり、さまざまな技術を持つ企業が協力して、タイムリーに市場投入することが肝要だ。

 世界の航空旅客需要は新型コロナウイルス禍で一時落ち込んだとはいえ、年率3~4%の増加が予想され、民間航空機市場は拡大が続くとみられている。1機の部品点数が300万点に上り、完成機を国内で造れば経済波及効果が高い。旧MRJの開発に当たっては、岡山県内でも参入を目指す中小企業があった。次世代機の開発が、地方の製造業の技術革新や雇用拡大につながることを期待したい。

 航空機は社会経済活動を支える重要なインフラであり、国産化は安全保障の面でも大きな意味がある。国は旧MRJに続き、多額の資金支援を計画している。失敗を繰り返すわけにはいかない。