リニア中央新幹線の工事がどのぐらい遅れるのか。県内の状況が具体的に明らかになってきた。
JR東海が、飯田市の座光寺高架橋と保守基地の工期を2031年3月末までとする方針を示した。
同社は先月、目指していた東京・品川―名古屋間の2027年開業を断念すると表明。開業が遅れる以上、県内でも工事を急ぐ必要性が低下したと説明している。4年ほどの延長となる。
新たな開業時期の見通しは立っていない。着工が遅れている静岡工区の工事に10年は必要なため、34年以降になるとみられる。長野県内の他の工事でも今後、ずるずると工期が延びていくケースが出てくるのではないか。
沿線の自治体に、まちづくりの見通しが立たないとの不満が広がっている。残土などを運ぶダンプカーの通行など、工事による住民負担が長引く不安も大きい。
JRは、昨年12月に工事実施計画を変更して開業を「27年」から「27年以降」とした後も、県内の工事は「ペースダウンしない」としてきた。言を左右にしているようにも見える。
飯田市の佐藤健市長は1日の年度始め式で、27年断念を受け「リニアに寄りかかりすぎない、地に足の着いたまちづくりに取り組んでいきたい」と述べた。
もっともな考えだ。リニア開業に向けた市町村のまちづくり計画は今後、軌道修正を迫られる。長く続く工事に伴う地域の負担をどう和らげるかも課題となる。
そうした困難と地域が向き合っていく上でJRに強く求めたいのが、住民や自治体とのオープンで迅速な情報共有である。
リニアを巡るJRのこれまでの対応では、住民の理解を後回しにする姿勢が目立った。説明会の出席者を厳しく制限して非公開にしたり、労災事故などの積極的な公表を避けたりしてきた。
トンネルの掘削で出る大量の残土の行方も決まらないまま、工事は既成事実化が進んだ。そんな状況の下で、今も事業への疑問を抱えている人が少なくない。
JRは、27年の開業を断念したのは静岡工区の着工の遅れのためだと強調する。静岡県の川勝平太知事が強く反対してきた。
だが、工事の遅れは長野をはじめ他県でも既に出ている。静岡だけが理由とは言えまい。
混迷の根底に住民の理解を軽視する姿勢があったのではないか。JRはこの際、情報共有のあり方を抜本的に見直すべきだ。
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