阿蘇草原の野焼き 多様な担い手確保したい(2024年3月31日『熊本日日新聞』-「社説」)

野焼き支援ボランティアのご案内 – 阿蘇草原保全活動センター


 阿蘇の草原維持に欠かせない野焼きや防火帯作りを支援する、公益財団法人阿蘇グリーンストックの「野焼き支援ボランティア」が今春、活動25年を迎えた。

 初年度に110人だった参加者は、近年延べ2500人前後まで増加。これまでに延べ約4万5千人以上のボランティアが、草原を維持する取り組みを支援してきた。派遣先も阿蘇地域にある約170牧野の4割に拡大。約2万2千ヘクタールある牧野の維持に必要不可欠な存在となっている。

 阿蘇の草原は堆肥や飼料に使う野草の供給源で、九州を流れる1級河川のうち6本の源でもある。希少な野生動植物を育み、波打つような緑が広がる景観は多くの観光客を魅了している。こうした多面的な機能の維持に貢献してきたボランティアや関係者の四半世紀の努力に敬意を表したい。

 だが、牧野組合員の減少や高齢化によって草原維持の担い手不足はさらに進んでいる。ボランティアの高齢化も著しい。さまざまな機会を設けて草原の価値と支援の必要性を県内外に伝え、多様な担い手を確保しなければならない。

 阿蘇の草原を取りまく環境は1990年代に大きな曲がり角を迎えた。91年の牛肉輸入自由化のあおりを受け、野焼きの主力を担う畜産農家が急減。過疎化や高齢化による人手不足も加わり、全域で野焼きの中止を決めた自治体もあった。

 関係者らによるシンポジウムで草原の危機が伝えられたことなどが契機となり、99年2月に阿蘇グリーンストックがボランティアの育成事業を開始。同年3月末には旧阿蘇町(現阿蘇市)の牧野で実施された野焼きにボランティアが初参加した。

 グリーンストックによると、現在のボランティア登録者は6割が熊本県内在住で、残りは福岡県など全国に散らばっている。村落共同体で管理されていた阿蘇の草原が、全国共通の資産として認識されてきた証しと言えよう。

 草原の価値も評価され、阿蘇地域は2013年に国連食糧農業機関の「世界農業遺産」、14年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界ジオパーク」の称号を得た。今はユネスコの「世界文化遺産」への登録も目指している。

 ただ、2年前の県の調査では、野焼きを今後「10年以上は維持できる」と答えた牧野組合はわずか26・5%だった。ボランティアの存在感は高まる一方だが、20年時点の平均年齢は63・6歳で、04年に比べ10歳ほど高齢化していた。

 担い手の確保に向け、グリーンストックや地元自治体などは野焼き文化の体験活動に力を入れている。企業の若手研修を積極的に受け入れ、地元在住の外国人向けの見学会も開いた。草原を舞台にしたスポーツ大会では、地元観光団体などでつくる実行委員会が参加選手のボランティア登録を仲介する仕組みを設けた。

 草原の価値を伝え、維持への協力を呼びかける取り組みを今後はさらに増やす必要がある。