本当に「物価と賃金の好循環」で景気は上向いているのか。ここにきて先行き不透明感が増す。
日銀が先週発表した地域経済報告(さくらリポート)では全国9地域中で7地域の景気判断を引き下げ、道内と四国は据え置いた。
富裕層やインバウンド(訪日客)の需要は好調だが、物価高の中で個人消費は節約志向が続く。
17年ぶりの利上げを先月決めた日銀の植田和男総裁は、安定した2%の物価上昇が「見通せる状況に至った」ためだと述べた。
一方で岸田文雄首相はその後の会見で「デフレ脱却への道はいまだ道半ば」と言及した。ちぐはぐな現状認識では混乱をきたす。
円安進行が「悪いインフレ」を加速させている。政府・日銀は為替を安定させ内需を軌道に乗せる戦略に本腰を入れるべきだ。
道内の景気判断を「持ち直している」に据え置いたのは、先端半導体製造ラピダスの千歳進出や北海道新幹線札幌延伸など特定の大型工事がけん引した側面が強い。
個人消費は全国すべての地域で横ばいか後退した。日銀は暖冬による冬物衣料や暖房器具不振など一時的な要因のためとしている。
ただ各地の企業の聞き取りでは時計やブランドバッグなど「高額品の売れ行きが良い」半面で、日用品は安値志向が強いという。
都市部に比べ地方に消費の「息切れ感」があり、特に高齢者で低調さが目立つという。円安の恩恵が一部にとどまり、二極化が鮮明になったのは確かだろう。日銀の分析は楽観的すぎないか。
同じく先週発表の3月の日銀企業短期経済観測調査(短観)は製造業の業況判断指数が大企業、中小とも4四半期ぶりに悪化した。
ダイハツ工業などの認証不正による自動車出荷停止の影響とされるが、3カ月後の先行き予測も全般に悪化している。中国経済失速や借入金利上昇も影を落とす。
利上げを決めた先月の日銀金融政策決定会合では、政策委員の中から「まだ物価から賃金への好循環が全国レベルで強まっているとは思われない」との意見が出た。
春闘で賃上げが進むが、自動車や電機などで組織する金属労協の中間集計ではベースアップ額が大手と中小で4370円開いた。前年の2.4倍で格差が拡大する。
中小は好循環というよりも人手不足などに対処するため賃上げを余儀なくされたとの指摘もある。
市場の関心は次の利上げに向かっているが、日銀は地域の現状に注意深い分析が必要だろう。