<Q&A>政府の「デフレ脱却宣言」なぜできないの? 日銀はなぜこのタイミングで利上げした?(2024年3月23日『東京新聞』)

 日銀はマイナス金利などの大規模緩和を終えた理由として、「2%の物価目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」などとデフレ脱却が視野に入っていることを挙げました。一方、政府はその後も「いろいろな指標を総合的に判断して決めなければならない」などとしてデフレ脱却宣言には及び腰です。政府と日銀で異なるように見える両者の経済認識についてまとめました。(白山泉)
 Q 物価上昇が続いているのに、政府はなぜ「デフレ脱却宣言」を出さないのでしょう。
 A 実質賃金が減少し続け個人消費が低迷していて、景気の見通しが楽観できないからです。政府の現状認識は「デフレではない」ですが、「脱却」とまでは言い切っていません。
 Q どうなれば政府はデフレから脱却したと言うことができるのですか。
 A 内閣府は2006年、「デフレ脱却」を判断するための条件として、4つの指標を示しています。このうちの消費者物価指数(CPI)と国内総生産GDP)デフレーターについては既に「条件をクリア」しています。しかし、単位労働コストと需給ギャップは一時的にプラスになり条件を達成したものの、再びマイナスに。達成したとは言い難い状況です。
 Q 日銀が利上げを判断したことと矛盾はないのでしょうか。
 A 日銀は2%の物価安定目標について「実現が見通せる状況」だとしていますが、「達成した」とまでは言っていません。金融政策についてもマイナス金利などは解除したものの、植田和男総裁は「緩和環境が続く」と緩和政策を続ける方針で、経済の先行きに自信を持てていない点では政府と同様です。
参院財政金融委で答弁する日銀の植田総裁=21日、国会で

参院財政金融委で答弁する日銀の植田総裁=21日、国会で

 Q 自信が持てない中で利上げしたのはなぜ。
 A 円安進行による輸入物価の上昇など副作用が目立ってきたことが要因と考えられます。大和証券の末広徹氏は「日銀は大規模な金融緩和を失敗だったと考えており、早くやめたかった」と解説します。超円安の恩恵による好業績で大企業が賃上げに積極的なことを、日銀が利上げの好機としたというのです。
 Q 日本経済の先行きはどうなりますか。
 A 株高や企業の好業績が超円安による一時的なものとなる可能性があり、賃上げも来年以降も続くかどうかは分かりません。野村総合研究所木内登英氏は「人材の能力や生産効率などを上げる必要がある」と指摘。減税など物価高への対症療法ばかりではなく、抜本的な政策を政府に求めています。
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◆「国内景気は緩やかに回復」…景気判断を据え置き

月例経済報告の関係閣僚会議に臨む岸田首相(右から2人目)

月例経済報告の関係閣僚会議に臨む岸田首相(右から2人目)

 政府は22日、3月の月例経済報告を公表し、国内の景気は「このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」との前月の判断を据え置いた。物価上昇や日銀によるマイナス金利解除などを受け、デフレからの脱却宣言に関心が高まったが、言及はなかった。
 報告では、個人消費を「持ち直しに足踏みがみられる」、消費者物価を「緩やかに上昇している」にそれぞれ据え置いた。設備投資は「持ち直しの動きがみられる」に上方修正。輸入は「このところ弱含んでいる」に引き下げた。
 また、日銀が19日に決定した金融政策の見直しに関する記述を追加。その上で「デフレに後戻りしないとの認識を広く醸成し、デフレ脱却につなげるとともに、新たな成長型経済への移行に向け、あらゆる政策手段を総動員していく」とした。
日本銀行本店

日本銀行本店

 日本経済はバブル崩壊後の1990年代にデフレに陥ったとされ、政府は2001年3月に「緩やかなデフレにある」との見解を初めて示した。デフレ脱却について、内閣府は「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義。消費者物価指数(CPI)など4つの経済指標を重視してきた。
 デフレからの脱却を巡り、新藤義孝経済再生担当相は会見で「判断については消費者物価などの指標に加えて、賃金の上昇や企業の価格転嫁の動向などさまざまな指標の動きを見ながら適切に判断していきたい」と述べた。(山中正義)