好循環と地域経済 中小の基盤強化が急務だ(2024年4月4日『河北新報』-「社説」) 

 「金利ある世界」は金融本来の正常な姿ではあるが、景気改善の実感が乏しい地域経済の現場では、原材料費や人件費の上昇、資金繰りに苦しむ中小零細企業の経営圧迫を招き、倒産を増加させる恐れをはらむ。

 貸出金利が急上昇する可能性は当面、低いとみられるとはいえ、企業は新たな環境の本格到来に備えて、生産性と収益力の向上が急務だ。

 地銀などは地域経済を支える中小企業に対し、延命のための資金繰りにとどまらず、経営改善や事業再構築などの支援に踏み込んでほしい。

 日銀が10年以上にわたって続けた異次元の金融緩和の終了を決めた。日銀は「ゲームチェンジ」に当たり、地域の状況をきめ細かく把握し、分析していく必要がある。

 政策の大転換は、賃金と物価がともに上がる好循環が強まったとの判断からだ。中小企業にも賃上げ圧力は強まっている。

 日本商工会議所の調査では、2024年度に賃上げを予定する中小企業は61・3%に増えた。だが、そのうちの6割は、業績は低調だが賃上げすると回答した。賃上げ余力は小さく、人材確保のために「防衛的賃上げ」を強いられているのが実態だろう。

 東京商工リサーチが2月に実施した調査では、回答した4000社超のうち、年末までに借入金利の上昇を予想した企業は半数を超え、2割弱が「既に上昇している」と答えた。メインバンクから借入金利を0・5%引き上げると打診された場合、中小では「借り入れを断念する」との回答が2割に上っている。

 同社によると、全国の企業倒産件数(負債額1000万円以上)は2月まで23カ月連続で前年を上回った。東北の2月の企業倒産は前年同月比52・7%増の55件で20~23年の月平均の2倍に迫る。倒産が零細・小規模から徐々に中小規模に移行しつつある。

 超低金利と新型コロナ対策の実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)は、業績不振の企業を温存させた面を持つ。帝国データバンクによると、本業のもうけを示す営業利益で借入利息を賄えない企業が22年度には25万件超と11年ぶりの高水準となった。

 ゼロゼロ融資の返済が本格化する中、今後、借入金利が上昇すれば企業淘汰(とうた)の波が押し寄せるだろう。

 中小の当面の大きな課題は人件費などの取引価格への転嫁だ。政府は昨年11月、労務費を価格転嫁できるようにするための指針を公表。公正取引委員会は発注者への監視を強めている。日本商工会議所小林健会頭は、大企業との価格交渉に「勇気を持って臨んでほしい」と呼びかける。

 真の「好循環」は雇用の7割を占める中小の経営基盤の強化、地域経済の成長なくしては実現しない。政府や日銀、金融機関は肝に銘じてかじを取り、手を尽くすべきだ。