町工場で生きる元記者が、技術と魅力を社会に伝える シンクタンク「町工場総研」(大田区)<挑む>(2024年4月7日『東京新聞』)

 
 町工場を専門にしたシンクタンク、町工場総研(大田区)は元大手産業紙記者の奥田耕士代表(59)が町工場の経営者に密着し、情報発信する。リーマン・ショックなどの経営難を乗り越え、変化する業界を見つめて20年近く。その技術を世にアピールする。
町工場総研設立の思いを語る奥田耕士さん=大田区で

町工場総研設立の思いを語る奥田耕士さん=大田区

◆産業紙記者から転身後も関わり続け

 「満額回答に浮かれるな!」。大手で大幅な賃上げが相次いだ春闘の1次回答が公表されると、町工場の経営者の景況感を伝える記事をホームページに上げ、大手はコスト重視をやめて価値重視のものづくりをすべきだと強調した。
 日刊工業新聞半導体や自動車業界などを経て、2006年以降に南東京支局長や中小企業部長として町工場を取材。12年から大田区産業振興協会で産業政策に携わった。「大手に(仕事を)切られた工場が消費者向けや別業界に挑戦し、能力や技術をアピールするようになった」と振り返る。

◆町工場の一角を借りて立ち上げ

 22年に同協会を退職後は、「記者の仕事は頭でっかちになりやすいから」と、職業訓練校で半年間、旋盤加工技術や3D設計ソフトなどを一から学んだ。「会社がうまくいかなかったら、町工場の一員として仕事をすれば良いかと考えた」。同年10月に町工場の一角を借りて総研を立ち上げた。
 広報部門を持つ余力のない町工場に代わってメルマガやホームページなどを制作する。将来的には自治体や大手企業、金融機関向けのリポートを発刊し、町工場との連携を促すのが目標だ。「大手では出せないアイデアや、トライ&エラーが町工場の強み。単なる下請けではなく、大手と協力してイノベーションを生み出してほしい」と願う。(白山泉)