『虎に翼』に関する社説・コラム(2024年4月7日」)

『虎に翼』と女性トップ(2024年4月7日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 

 4月から始まったNHK連続テレビ小説『虎に翼』。主人公・猪爪寅子[ともこ]のモデルは、日本初の女性弁護士の一人、故三淵嘉子さんだ

三淵嘉子さん

▼昭和の初め、結婚して家庭を守ることが女性の幸せと考えられていた時代。寅子はお見合い結婚を勧める母親を振り切り、女性に法律を教える日本で唯一の学校への入学を決意する

▼そのころの女性たちが置かれていた社会的地位は驚くほど低い。大学の授業をのぞき見した寅子が、婚姻後の女性を「無能力者」だとする明治民法の法律用語を耳にして、思わず「はぁ!?」と大きな声を出してしまうシーンは象徴的だった。価値観にあらがい、正面から疑問をぶつける寅子の奮闘が今後も楽しみだ

▼そんな昭和初期の時代からすると隔世の感がある。国内では今年に入り、女性のトップ起用が相次いでいる。全国4万5千人余りの弁護士で構成される日弁連では、会長に渕上玲子さんが就任。経済界では、日本航空社長に鳥取三津子さんが昇格した。政界では共産党委員長に参院議員の田村智子さんが就いた

渕上玲子さん

 

鳥取三津子さん

 

田村智子さん


▼世界に後れを取っている日本としては歓迎すべき出来事だが、喜んでばかりもいられない。本人たちにとってはこれからが正念場だろう

▼ドラマのタイトルは、中国の法家韓非子(かんぴし)の言葉「虎に翼」にも通じる。「強いものの上にさらに強さが加わる」という意味だ。寅子にとって法律の知識こそが翼となるのであろう。現代は寅子の時代より翼を得ることができる時代。大きく羽を広げる女性がもっと増えるといい。

虎に翼(2024年4月7日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 今月始まったNHK連続テレビ小説「虎に翼」に第1週から引き込まれた。昭和の初め、女学校の卒業を控えた主人公の寅子(ともこ)はたまたま訪ねた大学で、聞こえてきた「女性は無能力者」という言葉に驚く

▼教室で行われていたのは、明治時代に制定された民法の講義だった。女性は結婚すると法律上、無能力者とされ、妻の財産は夫が管理し、妻が働く場合は夫の許可が必要だった。「はぁ?」。寅子でなくても大きな声を上げたくなる

▼あまりに男尊女卑な明治民法は後に改められる。第2次世界大戦後、男女平等を定めた憲法が制定された。ただ、法律が変わり、進学も就職も制限されなくなったものの、社会のあちらこちらに性別による役割分担の意識は残る

▼「平成の時代にも、女はそんなに勉強しなくていいと言われた」「寅子が直面する問題は令和の時代にも存在する」…。SNS(交流サイト)では主人公に自身を重ねる女性たちの投稿も目立つ

▼寅子のモデルとされるのは日本初の女性弁護士の一人、三淵嘉(みぶち・よしこ)子さん(1914~84年)。司法の分野で道なき道を切り開いた人である。今年で没後40年になる

▼ドラマの中の寅子の口癖は「はて?」。疑問を感じたら立ち止まり、「なぜ?」「どうして?」と問いかける。誰かが声を上げれば社会は変わる。これまでも、これからも。