国立大学法人化20年 反省踏まえ研究力強化を(2024年4月7日『毎日新聞』-「社説」)

さまざまな大学ランキングで国内トップに選ばれる東京大。写真は本郷キャンパスにある安田講堂=東京都文京区で2023年12月10日午後3時3分、本社ヘリから宮間俊樹撮影
さまざまな大学ランキングで国内トップに選ばれる東京大。写真は本郷キャンパスにある安田講堂=東京都文京区で2023年12月10日午後3時3分、本社ヘリから宮間俊樹撮影

 日本における知の拠点の衰退ぶりは目を覆うばかりである。国立大が法人化されて4月で20年となったが、反省すべき点は多い。

 公務員数などを減らす行財政改革の一環として実施されたものだ。学長を中心にした柔軟な組織運営や企業との連携強化が容易になった。財界人らの入った協議会が設置され、外部の目で経営努力もチェックされている。

国が多額の基金を活用して支援する「国際卓越研究大学」の候補になった東北大片平キャンパス一帯=仙台市青葉区で2023年5月4日、山本晋撮影
国が多額の基金を活用して支援する「国際卓越研究大学」の候補になった東北大片平キャンパス一帯=仙台市青葉区で2023年5月4日、山本晋撮影

 それまで国立大は文部科学省の内部組織だった。学科の名称変更さえ省令改正が必要で、業績を上げた教員の給与アップも難しかった。法人化は1886年の帝国大誕生以来の歴史的転換とされ、国の保護下で硬直的だった体質の改善も期待された。

 だが、思うような成果は出ていない。

 影響力の大きい論文のシェアで日本は20年前の世界4位から13位に沈んだ。大学ランキングは中国や欧米が上位を占める。研究の質、国際性、産業界への貢献などを総合評価する英教育誌2024年版で、上位100校に入ったのは東京大と京都大のみだ。

 低迷の原因に挙げられるのが、人件費や光熱費などにあてる運営費交付金の減額だ。法人化後、毎年のように約1%ずつ減り教職員の採用が困難になった。

 自由に使える研究費は乏しくなった。政府が代わりに打ち出したのは、高額な研究費を少人数に集中して投じる「選択と集中」である。ただ、その多くは数年間限定のため、短期で成果を得やすいテーマに走りがちだ。

 研究者は、資金獲得の書類作成などに忙殺され、雇用も不安定な有期契約が増えた。

 この20年間に、修士課程から博士課程への進学者はほぼ半減し、人材難が深刻化した。専門性の高い人材の受け入れを敬遠しがちな企業の姿勢も一因だ。

 資源の乏しい日本にとってイノベーションこそ生命線である。大学はその基盤であり、米国籍を含め28人いる日本のノーベル賞受賞者を輩出してきたのが国立大だ。

 政府は法人化の功罪を検証しなければならない。大学が変革を続けることも重要だ。多様で裾野の広い教育研究の環境を整えるため、経済界を含め社会全体で大学を支える取り組みが求められる。