千葉大学新学長は「人格は高潔」で物議…議事録公開が火に油…学長選は医学部による出来レースだった(2024年3月27日)

山田賢氏

「前学長の改革を継続・発展させられる者」

「製薬マネー」ランキング1位、あだ名は“億夫”
「なにより物議を醸しているのは《人格は高潔》という一文です。学内での横手さんのイメージといえば、金稼ぎが上手い人。陰では“億夫”というあだ名で呼ばれているほどですから」(同)

 あだ名の由来は製薬マネーだという。雑誌『選択』の2018年6月号に「製薬会社と大学教授『果てなき癒着』」と題する記事が掲載された。そこでは、国立大学附属病院の内科医らが講演料などの名目で製薬会社から多額の金銭を受け取っていた事実が暴露されている。しかも、受領金額が多い医師のランキング表まで掲載。そこで堂々たる1位を獲得したのが、ほかならぬ横手氏だった。

 調査を行ったのは特定非営利活動法人ワセダクロニクル(現・Tansa)と有志の医師たちだが、新潮社のWebマガジン『フォーサイト』も同じデータに基づく記事を掲載。そこでもやはり《トップは千葉大学の横手幸太郎教授(内科、代謝・内分泌)で2000万円。年間に155件の講演などをこなしていた》と報じられた(『製薬企業から謝礼金「270億円」もらう医師の「本音」』Foresight:2018年7月10日配信)。

「報道されている資料によれば、横手さんは少なくとも16年から19年まで、毎年のように2000万円近い製薬マネーを受け取っていたようです。学内でも相当話題になりましたよ。2000万円なんて国立大教授の平均年収を越えていますし、年155回の講演って、もはやそっちが本業なんじゃないかと。でも、やはり医学部出身だった当時の学長の一存で『社会貢献に係る真に止むを得ない兼業』であれば問題なしという形に兼業規則が改定され、不問に付された。だから今回、横手さんが学長選に立候補すると聞いて『嘘でしょ、あの億夫が?』と眉を顰める教職員も多かった」(同)

同じ選考委員が「筑波大」学長選でも炎上

 ここでひとつ疑問が浮かぶ。学内投票で1位だった候補を差し置いて異論噴出の人物を選定した「学長選考・監察会議」とは、どんなメンバーで構成されているのだろうか。

「選考会議は各学部の代表である学内委員7名と経営協議会が選ぶ学外委員7名、計14名で構成されています。公開された議事録から、14名のうち6名が学内意向聴取で1位だった山田賢さんに投票し、残り8名が横手さんに投票したことが判明しました。誰が誰に投票したかは公表されていませんが、様々な情報を総合すると、学内委員7名のうち確実に横手さんに入れたのは医学部出身の委員だけ。看護学部出身の委員も『学内意向聴取の結果を重んじるべき』として山田さんに投票したと言われています。一方で学外委員7名のうち議長を含む6名、あるいは7名の全員が横手さんに投票したようです」(同)

 つまり、学内の意向が外部の意見に押し切られたという構図のようだ。この点について落選した山田氏を支持する千葉大の関係者は「そもそも選出委員のメンバー構成がおかしい」と憤る。

「学外委員7名は例外なく、前学長か前々学長、あるいは前々々学長に任命されたメンバーです。つまり全員、医学部出身の学長が連れてきた人物。多くの国立大では学外委員の任期は2年2期までなどと定められているのですが、うちの大学では任期の上限がなく、7名の平均在任期間は9年にも及ぶ。最高齢は88歳、全員が70歳以上の高齢男性です」

 この関係者は、特定の委員と千葉大医学部の“浅からぬ関係”も指摘する。

「筆頭は選考会議議長の宮坂信之・東京医科歯科大学名誉教授(76)です。宮坂氏は16年度から現在に至るまで、千葉大医学部附属病院の監査委員長を務めているのです。そして横手さんは、11年度から19年度まで副病院長、20年度から病院長を務めています。

 宮坂議長は選定理由の説明文で横手さんを《(経営学修士の知識を活かし)病院の健全な運営に貢献しています》などと褒めちぎっていますが、自分が監査責任者である病院の経営が健全だと言っているだけで、自画自賛に等しいじゃないですか。

 おまけに宮坂議長は、18年度から23年度まで附属病院が開講しているビジネススクール『ちば医経塾』の講師も務めていた。附属病院から報酬を得ていたのであれば、濃厚な利益相反が疑われます」(同)

 問題視されているもう一人の学外委員が河田悌一・関西大学東京センター長(78)だ。

「公開された議事録には、学内意向聴取で1位の候補を選ばないことに関して《(過去にも同様の事例が)大阪大学筑波大学など、いくつかある》と反論する意見が載っています。この発言者は河田氏らしいのですが、例に挙げられた20年の筑波大学長選も今回同様、『おかしいじゃないか』という声が上がり大炎上しました。その筑波大の学長選考会議の議長こそ、誰あろう河田氏本人だったのです」(同)

 当時の新聞記事には、筑波大の教職員らが「選考プロセスに疑義がある」として選考会議に公開質問状を送ったことについて、議長である河田氏が「いちゃもんだ」と言下に退ける発言が残っている。

新型コロナ「5類になっても補助金を」と求めた横手新学長

 ちなみに、宮坂議長と河田委員が《人格は高潔》として猛プッシュした横手氏の師は、やはり医学部出身の齋藤康・前々々学長(81)だという。そしてこの齋藤氏も、河田氏とともに20年の筑波大学長選考会議のメンバーを務めていた。

「筑波大でも千葉大と同じような顔ぶれが、同じように物議を醸す人選を行っていたのです。議事録には横手さんを推す理由のひとつに《英語の論文が多い》というものもありました。でも、山田さんは近世中国史の専門家。医師と比べて英語論文が少ないのは当然です。

 昨年12月、東京大学が日本の大学として初めて『研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)』に署名しました。DORAでは、研究の評価は量ではなく質、それぞれの研究領域の特性が重視されるべきなどとされている。どんな学問領域であろうと英語論文の数だけで評価するという不公正な慣行のせいで、現在まで世界の大学ランキング上位が欧米の大学に独占されたままなのです。それを改めようというのが現在のワールドスタンダードなのに……。まさに老害ここに極まれりですよ」(同)

 というわけで、千葉大学長選の結果は議事録が公開されたことで「火に油」が注がれた状態になった。ただし、すでに触れたとおり、宮坂議長は公開した説明文の末尾で《今後新たな文書等が提出された場合も、これ以上の説明は行いません》と力強く宣言している。

 そして、就任が既定路線となりつつある横手新学長には、もうひとつの顔がある。

 新型コロナウイルス感染症法上の分類が5類に引き下げられることが決まった昨年2月、一般社団法人・全国医学部長病院長会議の会長でもある横手氏は記者会見で「各病院はぎりぎりの収支でやってきた。赤字のままでは通常診療ができない」と主張し、5類移行後も診療報酬の加算、病床確保や病棟閉鎖に対する財政支援の継続を訴えた。

 しかし、当時、いわゆる“幽霊病床”が問題視されていたこともあり、コロナ禍で補助金を受けた国立病院や国立大学病院などの収支を会計検査院が調べたところ、千葉大附属病院を含むそれらの病院では21年度だけで補助金収入が平均14億円あり、平均約7億円の黒字となっていたことが発覚している。

 これを選考会議が評価した「健全な経営」手腕と取るか、学内の不満分子の言う「金稼ぎが上手い人」と取るかは、永遠に平行線をたどる価値観の違いなのかもしれない。

デイリー新潮編集部