同日まとめた「博士人材活躍プラン」で、40年に人口100万人あたりの博士号取得者数を20年度比で約3倍の300人超にし、世界トップ級に引き上げる目標を掲げた。学士号取得者に対する博士号取得者の割合は8%と同3倍にするほか、博士課程学生の就職率は80%と23年比で10ポイント高めるとした。
大学には教育の質の保証や国際化を求めた。経団連が2月に発表した調査によると、企業が大学院に求める改革として産学連携や課題解決型教育が6割に上り、カリキュラムと産業界の期待のズレが鮮明になっている。
文科省はこうしたズレを解消するため、世界トップ水準の教育を行う拠点形成や海外大との共同研究拡大を大学に促す。社会人教育などで企業との連携拡大も求めた。
企業にも博士人材の能力や強みに目を向けるよう要請した。文科省は博士のキャリアパスを多様化するため、企業と大学が取り組むべき内容をまとめた手引を作成する。実践的なインターンシップの拡充にも取り組む。
博士課程学生が安心して研究に打ち込める環境もつくる。優秀な博士課程学生を対象にした生活費相当額の支援や授業料減免を促進し、25年に18年度比3倍の学生に行き渡らせるとした。
「博士離れ」は深刻だ。博士課程の入学者数は23年度に1万5014人とピーク(03年度)から2割程度減った。特に修士から博士に進学した学生は4割減少した。就職を選んだ理由は「進学すると生活の経済的見通しが立たない」「博士になると就職が心配だ」が3割を上回った。
研究力の指標となる引用上位10%の論文数で日本は下落傾向で、19〜21年の平均では過去最低の13位に沈んだ。博士離れはさらなる国際競争力低下につながりかねない。
主要国との差も開く。文科省によると、博士号の取得者数は人口100万人あたりで日本は20年度に123人。主要国と比較すると英国(340人、21年度)、ドイツ(338人、同)、米国(285人、19年度)などの4割前後にとどまる。
日本では一度就職すると博士号取得のために休職しにくい。一方、欧米は産業界と大学の人材交流が盛んで、金融商品開発や人工知能(AI)分野のデータ分析など実務的な内容を研究テーマとしていることも多い。博士人材が企業で活躍できるフィールドが広がり、給与が高いことが取得者数の増加の背景にある。
政策研究大学院大の隅蔵康一教授(科学技術政策)は「博士人材の3倍増は簡単に達成できる目標ではない。学生を研究室に囲い込まずに長期的な視野で活躍してもらうには大学教員の意識改革、学生への経済支援拡充に向けた財源確保などを進め、なり手が自然に増える循環をつくっていく必要がある」と話した。
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