全盲の記者、ひとりじゃないと伝えるため「見えないを可視化」 100年以上の歴史「点字新聞」の取材に密着 【news23】(2024年4月6日)

佐木さん「なんか天井が高いですよね」
ヤマハ担当者「そうですね」

喜入キャスター
「(天井が高いと)なぜ分かったんですか?」

佐木さん
「肌に感じる空気感がふわっと広がったような感じがした。おそらく天井が高いのかなと」

佐木さん
「目の見える記者であれば、写真を撮って後で見返すことができるんですけれど、私はそういうことがやっぱりできないので、触れるものは何でも触り、体験できることは何でも体験して。分からないことは分かったつもりにならないで、細かく聞いて自分の中で理解をして、体に染み込ませるという取材スタイルです」

そして、こんな質問も…

佐木さん
「ちなみにおいくらくらい?」
「一番高価なものでおいくらくらい?」
「おいくらくらい?」
「いかほどで?」

佐木さん
「見えている方は値札を見たりしてすぐに確認することができますけど、私はそれがやっぱりできないので、『これなんぼ?』みたいな感じで、許してもらえるかなと思いながら、ちょっと迫ってみました」

全盲の記者 記事で“見えないを可視化”

記者を志したのは、ある事故がきっかけでした。

佐木さん
「ちょうどこのあたりなんですよね。今から30年近く前ですかね、生まれて初めて『助けて』と大きな声で救助を求めたのを覚えています」

大学生のとき、誤ってホームから転落。電車にひかれ、大けがをしました。

今では整備も進んできていますが、当時、現場にホームドアなどはありませんでした。

佐木さん
「私ひとりの問題かと思ったんですけれど、実はすごく多くの方が転落していることが分かった。目が不自由で見えない見えにくい人が『ひとりじゃないよ』ということを広く伝えられる記者になりたいと思うようになった」

2005年、毎日新聞に入社した佐木さん。駅のホームや踏切での事故の取材に特に力を注いできました。なぜ事故が起こったのか、どうすれば防げたのか。自ら現場で取材し、伝え続けています。

佐木さんは毎日新聞にも連載を持っていて、目の見える人に向けても発信をしています。

喜入キャスター
「佐木さんは記者として『見えない』ことをどのように捉えていますか」

佐木さん
「あまり見えないことで悩むのは、実はそれほどないんですよね。一番悩むのは目が見えないことではなくて、もうちょっとうまく記事が書ければよかったかなというところに結構悩み、苦しみ、もがくところが大きくて。見えないなっていうところで苦しむことは、ないと言っていいと思います」

今、思うことは…

佐木さん
「目が見えなくなった中学生のときの自分に、『頑張っているよ、それなりに踏ん張っているよ』 と胸が張れるような人になればいいかなと。一番のライバル、意識しているのは見えなくなったときの自分かな」

妻・佳哉子さん
「おー」

■「会話が大事」障害者への“合理的配慮の義務化”を考えるきっかけに

上村彩子キャスター:
新聞で佐木さんの記事を読んだことがありますが、目が見えない記者だとは全く知りませんでした。今回のインタビューの中で、「記者として見えないというところで苦しむことはない」と言い切っていましたよね。ハンデだと感じていない姿がとても頼もしく感じました。

喜入友浩キャスター
今回、取材をして、佐木さんはまっすぐに現場と向き合っていると感じました。聞くべきこと、気になったことはその場でしっかりと聞くという姿勢には同じ取材者として、ハッとさせられました。

佐木さんは「記事は自分ひとりで書いているものではない。取材先の協力があって記事になっている」と話していました。

佐木さんの取材中は、取材先の駅員や店員が積極的に佐木さんに話しかけて、自然と会話が生まれていました。

2024年4月から、企業には法律で障害者への合理的配慮が義務付けられます。佐木さんによると、「会話が大事」だということです。「当事者もまだどうしたらいいか分からない」「探っている段階」、義務化が「考えるきっかけになれば」としています。

上村キャスター:
困っているときに助けるというのは当たり前ですが、障害がある方に気を遣いすぎて、「これはもしかしたらできないのではないか」と勝手にハードルを上げて、活躍の場を狭めてしまっているのであれば、大間違いだなと思いました。

私達と違う視点で取材を重ねて記事を書く佐木さんのような記者がもっと増えると嬉しいなと思いました。