目の見えない人は、どうやってインターネットのウェブサイトを利用しているのか。
本紙のサイト「東京新聞Web」の改善点も見つけようと臨んだ取材で、がくぜんとする事実を突きつけられた。進めども進めども、記事にたどり着けない。直さないといけない点が多すぎる…。
◆読み上げソフトの利用で起きたこと
東京新聞Webには初めて訪問してもらった。ページの左上から順番にキーボードでカーソルを一つずつ右に動かすと、そこに書かれた文字が女性の声で読み上げられていく。
ところが、すぐにつまずいた。記事一覧よりも先に広告があったからだ。突然、「テレワークで生産性…」と読み上げられ、記事か広告かも分からない。自動で広告が切り替わった途端、カーソルがページの冒頭へ。振り出しに戻るだ。
「東京」「社会」など記事の分野を一覧にした帯もハードルに。数十個あった分野に一つずつカーソルが止まるので、なかなか次に進めない。
読み上げソフトで利用しづらいニュースサイトは多いといい、柳田さんは「視覚障害者がネット空間にいることが意識されていない」と感じている。
◆必要な「ウェブアクセシビリティ」とは
ウェブが発展し、情報の手に入れやすさ(アクセシビリティ)は向上した。記事の読み上げも、新聞紙面ではできなかった。それでもなお、全盲や画面拡大が必要な弱視、特定の色が見えない人、動画の音を聞けない聴覚障害者にとってはハードルが高いままだ。
デジタル庁はウェブアクセシビリティの導入ガイドで、改善の努力は「万人のため」と説明する。例えば、動画の字幕は聴覚障害者だけでなく、イヤホンを忘れた人の電車内での視聴にも役立つ。加齢で視力、聴力などが低下する高齢者にとっても重要だ。
ガイドには、ウェブアクセシビリティの規格や「達成すべきこと」も紹介されている。写真やイラスト、グラフが見えなくても、内容が分かるような文章を載せることなどだ。
本紙は編集、技術の両部門で対応を検討しているものの、現状ではなかなか追いついていない。ただ変化もある。最近では、本紙広告局がまとめた、特定の色が見えづらい人を考慮した色使いのガイドがウェブ部門の担当者に共有された。小さいながらも一歩ずつ前に進んでいる。
◆法改正で困り事への対話義務化
4月施行の改正障害者差別解消法で、障害者への「合理的な配慮」が企業にも義務付けられる。ただ、ウェブアクセシビリティへの対応は「義務」になるわけではない。具体的な困り事の申し出があれば、企業は負担が過度にならない範囲で解決策を探る「建設的な対話」が義務になる。
例えば、東京新聞Webで昨年11~12月、短い広告を見ないと次の記事が読めない仕組みを試みた際、視覚障害者から「広告が消せない」と相談があった。社員は広告が出ないようにする方法を案内するなど、困り事の解消に努めた。
ウェブアクセシビリティの向上は「合理的な配慮を的確に行うための環境整備」に当たる。不特定多数に向け、困り事が起きにくくする取り組みだ。建物の改修と同じく、完全な対応には費用がかかり、義務化までには至っていない。
とはいえ、放置は望ましくない。
自治体のサイト改善を支援する「ユニバーサルワークス」の清家(せいけ)順代表は、企業が客になり得た人を取りこぼす「機会損失を防ぐ」意味もあるとし、「不十分であると認める勇気があると前に進める」と指摘。問題点を公表し、改善を続ける大切さを説く。
障害当事者の柳田さんは「法改正を機に自社サイトのアクセシビリティを見直してほしい」と訴える。「考えた経験は具体的な困り事の解決にも役立つと思うから」
イラスト・連載タイトル「明日への扉」のマーク
◆今月の鍵
今月の鍵はSDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」。デジタル編集部の記者として色鮮やかなグラフを自作し、満足していた。それだけでは足りないと今回、知った。1人でも多くの人に情報を届けるため、困難を抱える人の声に学ぶ姿勢を持っていたい。(記事終わり)