経済安保法案 秘密の拡大がはらむ危険(2024年4月6日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 秘密保護法制の拡大は、国による情報の統制と監視を一段と強める。その危うさについて掘り下げた議論がないまま、新法の成立を急いではならない。

 政府が国会に提出した重要経済安保情報保護・活用法案である。衆院の内閣委員会が与野党の賛成多数で可決した。

 特定秘密保護法による機密の保全に加え、産業経済の分野で国の安全保障に関わる情報の保全を図る制度改定だ。安全保障に著しい支障が生じる恐れがある情報は特定秘密とし、そのほかの重要情報を新法で機密指定する。

 具体的にどんな情報が指定されるかは定かでない。機密の範囲が歯止めなく広がり、恣意(しい)的な情報隠しにもつながりかねない。

 運用を国会が監視する仕組みが必要だとする野党の要求を受け入れ、内閣委で法案の修正がなされた。とはいえ、それが確かな歯止めになるとは考えにくい。

 特定秘密に関しては、衆参各院に情報監視審査会が置かれているものの、権限は弱く、限界があらわだ。審査会が秘密情報の提示を求めても、政府は安全保障上の理由を盾に拒むことができる。そもそも監視の役割を果たせる仕組みになっていない。

 特定秘密の漏えいは、最長で拘禁10年の厳罰が科される。新法の機密についても、漏えいに最長5年の拘禁刑を科すほか、特定秘密の場合と同様に、教唆や共謀も刑事罰の対象になる。

 秘密法の射程を経済安保にまで伸ばすとともに、新法による情報の保全を外枠として組みつけることで、秘密の範囲は大きく広がる。しかも、何が秘密なのかは明確でない。知る権利が損なわれるばかりか、市民がいつ処罰されるか分からない怖さがある。

 機密を扱う資格を審査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)の制度も、新法によって民間企業や大学の研究者、技術者らが幅広く対象になる。犯罪歴、飲酒、借金、精神疾患といった機微なプライバシーが洗い出され、調査は家族にも及ぶ。

 見落とせないのは、首相の下に設ける機関が調査を担うことだ。対象者の個人情報が一元的に集約され、監視国家化が進む恐れがある。調査が適正に行われているかを確かめる仕組みはない。

 それは公安警察の権限の強大化と表裏一体でもある。情報の統制と監視の強化は社会を窒息させ、民主主義の根幹を揺るがす。国会の法案審議に注意深く目を向けていかなくてはならない。