命や健康にかかわる規制を緩めすぎていたのではないか。制度の存廃を含め、抜本的な見直しを求める。
消費者庁があり方について再検討を始めた「機能性表示食品」制度である。
小林製薬(大阪市)が製造販売した機能性表示食品のサプリメントで健康被害が広がった。
まだ原因が分かっておらず、サプリ問題と制度との因果関係ははっきりしない。とはいえ、制度がサプリにお墨付きを与え、消費者の購買を促していた面があるのは明らかである。
機能性表示食品はその名の通り食品であって薬ではない。ところが「コレステロールを下げる」「血圧を正常にする」「体脂肪を減らす」などと機能性をアピールできる。医薬品のような効き目があると受け取る人がいて当然だ。
それでいて、安全性や効能、効果の科学的根拠が厳しく問われる医薬品と違い、機能性の評価は事業者の責任とされ、国は審査しない。臨床試験か文献調査の資料などを整え、消費者庁に届け出れば表示できる。
届け出のガイドラインでは、特にサプリの安全性について医薬品並みの品質管理を求めているが、それも義務ではない。あまり手続きが厳格では事業者が参入しにくくなるためとみられる。
制度は2015年にできた。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、さまざまな分野で規制緩和を進めた安倍晋三政権の成長戦略の一つとされた。
狙い通り、健康志向の高まりにも乗って急拡大。届け出数は約6800件に上り、市場規模は7千億円近くに膨らんでいる。
国は買い上げ調査などで必要に応じて事業者に改善を指導している。だが、明らかなガイドライン違反を除けば、多くは事業者名や商品名が十分公表されず、誇大な表示が後を絶たない。健康被害の報告も事業者任せだ。
小林製薬も消費者庁への報告は被害が疑われる一報を受けた2カ月後だった。5人が亡くなり、180人超が入院せざるを得なくなったのは、制度が招いた災禍とも言える。当初から日弁連や消費者団体に問題点を指摘されながら、抜本改善に取り組んでこなかった国の責任は重い。
安全性や機能性の証明への国の関与、情報開示の徹底、被害報告の義務化が最低限必要である。結果の重大さを考えれば、制度の廃止も視野に入れるべきだ。
命と健康を成長戦略と同じはかりにかけることはできない。