米英仏では「秘密指定」廃止の流れ 経済安保情報保護法案 なぜ今さら日本に?指摘される「最大の不備」は(2024年3月31日『東京新聞』)

 
 国が指定した経済安全保障上の機密情報を扱う人の身辺調査をするセキュリティー・クリアランス(適性評価)制度の導入を柱とした「重要経済安保情報保護法案」を巡り、いろいろな問題点が指摘されている。政府は今国会での成立を目指すが、28日の衆院内閣委員会の参考人質疑でも有識者が人権侵害などを防ぐ仕組みがないと懸念を示し、法案の問題点が改めて浮き彫りとなった。(近藤統義)

 重要経済安保情報保護法案 防衛や外交など4分野の情報保全を目的とした特定秘密保護法の経済安保版。半導体など重要物資の供給網や重要インフラに関して国が保有する情報のうち、流出すると安全保障に支障を与える恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。重要情報を扱う人の身辺調査をする「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を導入する。情報漏えいには5年以下の拘禁刑などを科す。

◆市民情報を一元的に収集「日本の歴史上初めて」

 「多くの市民の機微情報を国の機関が一元的に収集する制度は日本の歴史上初めてだ。権限行使の乱用を防ぐ仕組みが全く議論されていない」
 日弁連斎藤裕副会長はこう発言した。内閣府が実施する適性評価のための身辺調査は、情報を扱う民間企業の社員や研究者らの経済状況、家族の国籍など広く個人情報を集めるが、法案には目的外利用などをチェックする仕組みがない。斎藤氏は「監督するところをつくり、罰則も設けなければならない」と指摘した。
 身辺調査を拒否した社員に対して、企業側が不利益な取り扱いをしても罰則はない。法案作成に向けた政府有識者会議座長の渡部俊也・東京大副学長は「制度を支える貴重な人材の処遇や雇用に不具合があってはならない」と強調した。
 法案ではどんな情報が機密情報に指定されるか基準がはっきりしていない。そのため、政府が恣意的(しいてき)に指定していないかチェックするため、特定秘密と同様に国会の情報監視審査会の対象とするよう求める意見が相次いだ。政府の公文書管理委員会で委員長代理を務めた三宅弘弁護士は「この法案の最大の不備だ」と批判した。

アメリカでも当局が指定廃止勧告

 法案はインフラや重要物資の供給網に関する情報のうち、漏えいが安全保障に支障を与える恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。政府はその情報の機微度をコンフィデンシャル(秘)級としており、より高いトップシークレット(機密)やシークレット(極秘)級を対象とする特定秘密保護法と区分する。
国会議事堂。手前が衆院、奥が参院

国会議事堂。手前が衆院、奥が参院

 政府は先進7カ国(G7)でコンフィデンシャル級を含め情報保全制度がないのは日本だけだとし、法案の必要性を強調している。渡部氏は理解を示したが、斎藤氏は「コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏で廃止され、米国も情報保全監督局が廃止を勧告している。非常にニッチな情報を保護する法律をなぜ作らなければならないのか」と疑問を呈した。