安保情報保護法案 知る権利侵害しないか(2024年3月9日『琉球新報』-「社説」)

 政府は機密情報の保全を先端技術や重要インフラなど経済安全保障分野に広げる新法案を国会に提出した。秘密のベールをより広げて国民の知る権利を侵す可能性をはらむ。プライバシー侵害の恐れも拭えない。

 国民の権利の担保が不十分だと指摘された特定秘密保護法を拡大適用するものである。国会審議で問題点をあぶり出す必要がある。
 提出されたのは「重要経済安保情報保護・活用法案」だ。機密の取り扱いを有資格者に限定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を創設し、漏えいには最長5年の拘禁刑などを科す。
 政府は法整備の理由について制度を導入済みの欧米と足並みをそろえる利点を挙げる。情報を共有し、企業の国際共同開発を促進することで、ビジネスチャンスが広がるという。
 ただ、進め方があまりに急だ。政府は、特定秘密保護法の運用を見直し、新法で補完する考えだが、具体的にどのような情報を秘密指定するのか不明確だ。高市早苗経済安保担当相は「まだ分からない」と述べた。恣意(しい)的な運用によって国民の知る権利を侵害する恐れがある。
 日本の秘密保護法制について日弁連は(1)政府の違法行為を秘密にしてはならないと明記されていない(2)政府の違法行為を暴いた内部告発者や市民を守る仕組みがない(3)実効的な秘密解除の仕組みを欠いている―などと問題視する。
 米国の制度は大統領令による秘密指定は軍事情報など一定のケースに当てはまる情報であることを明記する。情報開示で生じる安全保障上の損害を具体的に特定すること、政府の過ちを隠す目的で秘密指定することはできないことも記されている。秘密指定の範囲を限定しているのだ。
 それに対し、日本の現行法制では、政府の恣意的な機密指定や過剰指定で知る権利を阻害する懸念が拭えない。
 日弁連は軍民両面で利用可能な「デュアルユース」の先端技術研究まで「厚い秘密のベールで覆われる」とし、「日本経済の国家による統制が強化され、官産学共同の情報統制が進むことになりかねない」と強い懸念を表明した。
 適性評価制度の対象となるのは公務員のほか、研究者や企業の従業員らだ。本人の同意を前提としているが、犯罪歴や飲酒の節度なども身辺調査される。プライバシーを侵害し、本人に不利益を及ぼす懸念が残る。
 生物兵器製造に転用可能な装置を無許可で輸出したとする外為法違反罪などに問われ、後に起訴が取り消された大川原化工機の事件を忘れてはならない。警察内部から捏造(ねつぞう)との証言も出た冤罪(えんざい)事件の背景に、経済安保情報の保全を急ぐ動きがあったとされる。事件の検証を含め、安保情報保護を名目とした政府機関による知る権利の侵害を防ぐ方策について議論が必要だ。