東京女子医大「私物化」の内情とは 数年前から始まった異変…うずまく怒りが告発を招いた(2024年4月6日『東京新聞』)

 
 東京女子医科大(東京都新宿区)の同窓会組織「至誠会」を巡る一般社団法人法違反(特別背任)事件で、警視庁捜査2課の捜査の端緒は、大学トップの強引な経営手法や不透明な資金の流れに対する、内部関係者からの怒りの告発だった。
 医師や看護師の退職が相次ぐなど混乱が続き、同大病院の患者からは不安の声も上がる。(佐藤航)

一般社団法人法違反で警視庁の家宅捜索が行われている東京女子医大の弥生記念教育棟=3月29日

一般社団法人法違反で警視庁の家宅捜索が行われている東京女子医大の弥生記念教育棟=3月29日

 「ようやくこの日が来た。ここから大学が変わっていってほしい」。捜査2課が大学本部や岩本絹子理事長の自宅などを一斉捜索した3月29日、大学に駆けつけた卒業生の医師は、母校再生への期待を短い言葉に込めた。

◆「側近」に不透明な給与

 捜査関係者によると、特別背任の疑いが持たれているのは、至誠会が運営する「至誠会第二病院」所属だった、いずれも50代の男性事務長と女性職員。勤務実態のない女性に給与を支払い、会に損害を与えた疑いがあるという。関係者は「2人は至誠会の当時の会長でもあった岩本氏の側近」と話す。
 女子医大卒の岩本氏は2014年に副理事長、2019年に理事長に就いた。女子医大病院では2000年以降、小児患者が死亡する医療事故が続き、診療報酬の優遇措置が取り消されるなどして経営が悪化した。岩本氏は医師らの給与抑制や事務方の人員整理を進め、15年度決算で約38億円あった赤字を圧縮。19年度決算では約33億円の黒字に転換させた。

◆コストカットでPICUチームを失う

 急激なコスト削減に「医療体制を弱体化させた」との批判が噴出した。待遇や職場環境の悪化で医師や看護師の退職が相次ぎ、海外から迎え入れたばかりだった小児集中治療室(PICU)のチームはまるごと他大学に移籍。大学の報告書によると、22年度の医療系職員は約2800人で、14年度から約500人減った。
一般社団法人法違反で警視庁の家宅捜索が行われている東京女子医大の弥生記念教育棟=3月29日

一般社団法人法違反で警視庁の家宅捜索が行われている東京女子医大の弥生記念教育棟=3月29日

 一方で、不透明な資金の流れが浮かぶ。昨年3月には卒業生の一部が、大学の資金を不正に取引先に流して損害を与えたとする背任容疑で、岩本氏を刑事告発。至誠会は、理由なく側近職員に破格の給与を与えたなどとして、岩本氏らに対して約1億4000万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。大学関係者は「職員に我慢を強いながら、側近を厚遇し、不正に資金を動かしていたのであれば、許されない」と憤る。

◆患者ら戸惑い

 混迷が続く大学に、患者の家族からは戸惑いの声が上がる。大学病院で息子が治療を受ける女性は「現場スタッフは誠実に患者と向き合っている。医療従事者が本来の力を発揮できないような経営には疑問がある」と指摘。子どもがPICUに入っていた別の女性も「混乱によって小児PICUチームが大学を去ったのなら、患者の家族としてはやり切れない」と訴えた。
 
令和6年3月29日
この度は、当会の元会長に関連する報道により、世間をお騒がせしてしまっていることについてお詫び申し上げます。当会と元会長の関係性及びこれまでの経緯につきまして、以下の通りご説明差し上げます。

1.当会について

当会は、東京女子医科大学の卒業生の集まり(当時の名称は「校友会」でした。)として、1910(明治43)年に発足いたしました。初代会長は東京女子医科大学を創立された吉岡彌生先生です。

当会は、1923(大正12)年に名称を「至誠会」と改め、1926(大正15年)には公益法人(社団法人)となり、2011(平成 23年)からは一般社団法人として、公益的事業を展開してきました。具体的には、至誠会看護学校、至誠会第二病院、市民向けの公開健康講座、学術研究会などです。

なお、現在の会員数は、現在卒業生4500人余りと在校生600人余です。

2.従前の状況及び問題意識について

東京女子医科大学及び元会長の行動につき、様々な批判的な報道が為されましたが、東京女子医科大学は、十分な説明を行っておりませんでした。

元会長は、当会の代表として、いわゆる至誠会枠によって東京女子医科大学の理事に就任しておりましたので、当会の会員らの中では、元会長が十分な説明を行っていないことについて不信を抱くと同時に、そのような元会長を至誠会枠によって東京女子医科大学の理事に就任させていることについて自らの責任を感じる方々が多くいらっしゃいました。

また、そもそも、岩本絹子氏(元会長)が、当会の会長と、東京女子医科大学の理事長を兼任し、両法人にて大きな権限を振るっていることについて、ガバナンス上の重大な問題であると考える見識ある関係者が現れ始めました。

3.当会のガバナンスの是正について

そのような状況の中で、昨年、勇気ある当会会員が、「女子医大を復活させるOGの会」を発足させ、東京女子医科大学及び当会の立て直しのために結束し、令和5年1月頃から、当会の会員に対し、活動への賛同を求める署名運動を開始しました。

そうしたところ、当該運動は、良識ある多数の会員の支持を得て、昨年4月の臨時社員総会にて、賛成多数により岩本絹子氏(元会長)の解任を決議するという結果に結実するに至りました。また、6月の社員総会においても勢いそのままに、旧来の理事のほとんどが議席を失い、理事の顔ぶれは、ほぼ一新される結果となりました。

現在は、現会長のもとで、当会及び当会の運営する病院の経営の立て直しを図るべく、理事会における13名の理事及び監事による自由な意見交換及び会員に対する積極的な情報公開を実践しています。

そのような中で、従来の会計資料などを調べましたところ、元会長及び特定の事務員に対する長年に渡る多額の支払いが発覚し、理事会における承認のないままに支払われている事実が明らかとなりました。そのため、昨年10月、当会監事は、元会長及び当該事務員を被告とする不当利得返還請求訴訟(民事訴訟)を提起するに至っております。

その後、警察や専門家も交えて熟慮を重ねた結果、同支払いについて警視庁に被害届を提出することとなり、その結果、今回の強制捜査に至ったという経緯です。

以上のとおり、当会のガバナンスの問題は、当会会員の識見、勇気、良識及び努力によって、解消するに至っております。

4.残された問題 ~ 東京女子医科大学のガバナンスの問題について

当会は、昨年4月に元会長が解任され、新理事体制に移行しましたが、残念ながら、また、恥ずかしいことに、旧体制からの引継ぎは全く為されませんでした。さらに、東京女子医科大学は、昨年7月に当会との関係解消を突然決定し、「学内行事への参加の禁止」「学内説明会を今後行わせない」「当会の名称と類似した新しい同窓会組織(「東京女子医科大学同窓会至誠会」)を立ち上げる」等の決定を次々と行い、一方的に当会に通知しました。

そのため、誠に遺憾なことに、現在、当会と学生との交流が危ぶまれる事態になっています。

東京女子医科大学の決定の中には、「当会が運営する至誠会看護学校に対する講師派遣を打ち切る」、「これまで東京女子医科大学の成績優秀者に授与していた『至誠会賞』を廃止する」等、現役の学生にまで直接不利益を与える内容が含まれています。

現役学生、卒業生、職員らの利益に適うよう、ガバナンスの問題を解消するために活動してきましたが、かえって現役学生にまで累が及ぶ状況となっていることについて、忸怩たる思いです。

このような「本末転倒」の事態に陥っているのは、未だに東京女子医科大学のガバナンスの問題が解消していないためですので、東京女子医科大学の卒業生組織として、当会は、東京女子医科大学のガバナンス改善に向けた取り組みをさらに一段と強化する予定です。

5.今後について

大学と卒業生の会は本来、車の両輪として協力し、大学の発展や卒業生の利益に貢献すべきものと認識しております。

当会としましては、大学側との正常な関係の回復を目指し、また、現役学生、卒業生、職員らの利益のために、最大限の努力をしていく所存です。

関係者の皆様におかれましては、勇気あるご協力を頂けますよう、切にお願い申し上げる次第です。

一般社団法人至誠会 会長 齋藤麗子