疑問は消えないまま「経済安全情報保護法案」が衆院委員会で修正可決 知る権利は、プライバシー侵害は…(2024年4月6日『東京新聞』)

 
 経済安全保障上の機密情報を扱う民間事業者らを身辺調査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)制度の導入を柱とした「重要経済安保情報保護法案」が5日、衆院内閣委員会で与党や立憲民主党日本維新の会などの賛成多数で可決された。法案は、野党の要求に基づき、対象となる情報の指定などに関する国会監視を導入する修正が加えられたものの、国民の知る権利やプライバシー侵害の懸念を残したまま、9日にも衆院を通過する見通しだ。

 重要経済安保情報保護法案 防衛や外交など4分野の情報保全を目的とした特定秘密保護法の経済安保版。半導体など重要物資の供給網や重要インフラに関して国が保有する情報のうち、流出すると安全保障に支障を与える恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。重要情報を扱う人の身辺調査をする「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を導入する。情報漏えいには5年以下の拘禁刑などを科す

衆院内閣委で立憲民主党の山岸一生氏(左手前)の質問に答弁する岸田首相

衆院内閣委で立憲民主党の山岸一生氏(左手前)の質問に答弁する岸田首相

 衆院内閣委の審議で焦点となった国会の関与については、法案修正の結果、恣意(しい)的な情報指定や不適切な身辺調査をしていないかを国会の情報監視審査会でチェックする仕組みが導入されることになった。
 だが、20時間あまりの審議を通じて、どういった情報が指定対象となるのかは明確にならなかった。高市早苗経済安保担当相は、重要インフラがサイバー攻撃を受けた時の対応などの例は示したが、「法案成立後に閣議決定で定める運用基準で明確化する」との答弁を繰り返した。

◆指定は「初年度で数十件」

 情報の指定件数や、適性評価の対象者数の見込みもはっきりしなかった。高市氏は直前まで「正確にお示しすることは困難」としていたが、採決段階になって初めて「件数は初年度でも数十件程度、多くても3桁だろう。評価を受ける人数も多く見積もって数千人程度で、数万人の単位にはならない」と仮定の試算を示した。だがその根拠は説明せず、質問もなかった。
 評価に伴う身辺調査についても、家族の国籍や飲酒の節度など7項目が規定されているが、具体的にどういった個人情報を提供することになるのかは未定のままだ。
 政府は、先進各国と同等の情報保全制度が不可欠として、法案の必要性を強調してきた。政府案に反対した衆院会派「有志の会」の緒方林太郎氏は、10日に日米首脳会談を控えていることを念頭に「訪米前の採決を前提にしていたのではないか。この場は単なる通過儀礼ではない」と不十分な審議を批判した。(近藤統義)
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◆市民団体が廃案訴え

 重要経済安保情報保護法案の廃案を求めるため、六つの市民団体が5日、国会前などで集会を開き、今後も運動を継続していくことで団結した。
 衆院第1議員会館では、約30人が参加した。「秘密保護法対策弁護団」の海渡雄一弁護士が法案の問題点などを説明した。
重要経済安保情報保護法案の廃案を求め、海渡雄一弁護士(右奥)の話を聞く出席者ら=5日、衆院第一議員会館で(山中正義撮影)

重要経済安保情報保護法案の廃案を求め、海渡雄一弁護士(右奥)の話を聞く出席者ら=5日、衆院第一議員会館で(山中正義撮影)

 海渡弁護士は、秘密指定される重要経済安保情報の対象が不明確だと批判。「法案には経済安保の定義規定が欠けている。非常に広範囲の情報が指定される可能性がある」と指摘した。法案可決に対しては、「ここであきらめてはいけない。悪法がどういう運命をたどるかはどれだけの反対運動があったかで変わる」と運動の継続を呼びかけた。
 市民団体のメンバーからも「廃案に持ち込めるような大きな運動をつくっていきたい」などの声が上がった。国会前の集会には16人が参加し、横断幕などを掲げながら廃案を訴えた。(山中正義)