勤務実態ない元職員に2000万円の給与…「元理事長は大学を私物化」東京女子医大めぐる特別背任容疑事件(2024年3月29日『東京新聞』)

 
 東京女子医科大(東京都新宿区)の同窓会組織で一般社団法人「至誠会」の元職員が在職中、勤務実態がないのに会から給与約2000万円を受けた疑いが強まったとして、警視庁捜査2課は29日、一般社団法人法の特別背任容疑で、関係先の大学本部や大学の岩本絹子理事長(77)が経営する江戸川区産婦人科医院などを家宅捜索した。

◆大学と同窓会、両方から二重報酬

 捜索は29日午前から始まり、大学の広報担当者によると、理事長室や職員の事務室などに入った。
 捜査関係者らによると、疑いのある給与は、至誠会が運営する第二病院の職員だった50代女性に、2020年5月~22年3月に支払われた。元職員はこの間、至誠会から大学に出向する形で岩本氏の秘書業務などをしていた。大学側からの給与と合わせて報酬を二重に得ていたが、至誠会本部や第二病院での勤務実態はなかったという。
 
 捜査2課は、元職員や第二病院の事務長として給与の支払いを管理していた50代男性を特別背任容疑で調べる一方、当時の至誠会会長でもあった岩本氏からも事情を聴いているとみられる。
 至誠会関係者によると、岩本氏は13年6月~昨年4月に会長を務め、会長退任後に後任会長らが帳簿を調べたところ、元職員らへの不透明な給与支払いが発覚。会は昨年10月、約1億4400万円の損害賠償を求めて岩本氏らを提訴し、今月27日には警視庁に被害届を提出した。
 複数の大学関係者によると、大学では近年、岩本氏の経営方針に教授陣や職員らが反発。昨年3月には卒業生らが、大学が実態の乏しい業務委託契約で取引先に多額の資金を提供したなどとして、岩本氏を背任容疑で警視庁に刑事告発していた。
 岩本氏は東京女子医大出身。大学の理事や副理事長を経て19年4月から理事長。大学の広報担当者は「警察の捜査に全面的に協力する」とコメントした。

 特別背任罪 法人の設立者や理事などが自分や第三者の利益のために任務に背く行為をし、法人などに財産上の損害を与えた際、7年以下の懲役か500万円以下の罰金、またはその両方が科される。

◆コスト削減進めながら「お気に入り」だけ厚遇

 本部や理事長の関係先に異例の家宅捜索を受けた東京女子医科大。「女性のみに医学教育を行う国内外で唯一の機関」とうたう伝統校で、何が起こったのか。大学や至誠会関係者によると、学内では岩本絹子理事長が自身と親しい職員を優遇しているとの不満が渦巻き、「大学や同窓会を私物化している」という追及が強まっていた。
 
岩本絹子理事長(院長を務める葛西産婦人科のホームページから)

岩本絹子理事長(院長を務める葛西産婦人科のホームページから)

 至誠会関係者によると、今回の事件で至誠会から不正に給与を受け取っていたと疑われる元職員の50代女性も、もともと岩本氏が経営する江戸川区産婦人科医院に勤めていた。2015年4月、岩本氏が会長を務めていた至誠会に職員として採用され、直後に大学の理事長直轄の部署に出向していったという。
 岩本氏は昨年4月、至誠会の改革を求める卒業生らとの対立に敗れ、会長の座を退いた。後任会長が残された資料を調べると、元職員は至誠会から破格な高額給与を受け取り続けていたと判明。採用当初の月20万円前後が、やがて月100万円ほどとなり、支給総額はボーナスを含め8年間で約1億1000万円に達したという。
 至誠会によると、岩本氏自身も至誠会理事会の承認を得ないまま、会と自らの顧問契約を締結。会長就任直後の13年10月から19年9月まで、月約28万円の顧問料を受け取り続けた。
 東京女子医大は2000年以降、大学病院で医療事故が相次いだこともあり経営が悪化。岩本氏が人件費などの経費を過度に削減したことが、人材流出や医療供給体制の弱体化を招いたとの批判もある。学内では大学本体での不正を疑う声も強く、ある卒業生は「コスト削減を進めながら、自分に近い職員だけを優遇しているように見える。どう考えてもおかしい」と訴えた。(佐藤航)