女子医大捜索 架空報酬疑惑の先に何が(2024年4月2日『産経新聞』-「主張」)

 
東京女子医科大の施設前に集まる報道関係者=東京都新宿区

 名門医大の経営をめぐり、信じ難い醜聞が事件化した。

 東京女子医科大の同窓会組織である一般社団法人「至誠会」運営の病院が、勤務実態のない元職員に給与を不正に支払ったとして、一般社団法人法の特別背任容疑で大学本部などが警視庁の捜索を受けた。

 容疑の直接の舞台は同窓会組織だが、捜索は女子医大の岩本絹子理事長の理事長室や自宅などに及んだ。捜査が理事長に向いているのは疑いようがない。元職員は、実際は理事長の秘書業務に従事し、その人事は理事長権限とされるためだ。

 岩本理事長は兼任していた至誠会の会長を解任され、架空給与など不正会計疑惑で民事・刑事両面で訴えられていた。

 事件の背景には長期にわたる女子医大の内紛がある。大学病院で医療事故が相次ぎ、特定機能病院の承認が取り消された女医大は経営悪化が加速し、当時の理事長・学長の内部対立もあって学内統治は荒廃した。

 平成31年に理事長になった岩本氏は人件費など経費を激しく削減し、一時的な黒字転換に成功した。だが医療の質を顧みない経費削減策に反発する人材が流出し、医療供給体制そのものが脆弱(ぜいじゃく)化したと批判が強い。

 新型コロナ禍が激しかった時期、女子医大病院では医師、看護師のボイコットや集団退職が発生し、分野によっては医療存続が困難な状態に陥った。

 警視庁の捜索容疑が事実なら、岩本理事長ら経営陣は、医療従事者に医療継続が危ぶまれる経費削減を強いる陰で、一部職員には不正に高額の架空給与を与えていたことになる。

 警視庁が問題視するのは架空給与の「その先」だ。元職員が得た給与と架空給与は額が違うとの情報がある。差額の総計は相当額に上るとみられる。それがどこに流れたのか。理事長側の個人的使途となれば、言い逃れのできない犯罪である。

 東京女医学校(明治33年創立)が前身の女子医大はその新進性から、外科を中心に有力医師が集まり、日本の高度医療を象徴する存在だった。名門校の現状は無残の一言に尽きる。

 大学は自ら膿(うみ)を出すべきだ。過剰な経費削減で事務処理が追い付かず、窓口で患者に長蛇の列を強いた非人道的な光景を思い出してほしい。医大内紛の最大の被害者は患者なのだ。