岡口判事を罷免 制裁が苛烈に過ぎる(2024年4月4日『東京新聞』-「社説」)

 

判決公判のため裁判官弾劾裁判所に入る仙台高裁の岡口基一判事(3日、東京・永田町

 

 交流サイト(SNS)への不適切な投稿で訴追された仙台高裁の岡口基一判事を裁判官弾劾裁判所は「罷免」と断じた。だが、本当に罷免に値する非行なのか。岡口氏の人格を裁いていなかったか。表現の自由や裁判官の身分保障の点からも疑問が大きい。
 岡口氏は既に今月半ばに退官することを表明していた。つまり、今回の判断は裁判官の身分を奪うだけでは足りず、法曹資格をも奪う意味を持つ。退職金も出ない。苛烈な制裁を国会議員が科したことに強い危惧と警戒感を持つ。
 女子高校生の殺害事件などで、13件の不適切な投稿があったとして訴追された。だが、表現行為と相手の不利益を考えれば、岡口氏は既に相応の制裁を受けている。
 最高裁から2度の戒告を受けたし、殺人事件の遺族が起こした民事裁判では東京地裁名誉毀損(きそん)を認めた。本人も謝罪し、裁判官の職も辞す。これ以上の制裁は行き過ぎではないか。
 遺族らの苦しい気持ちは十分に理解するし、SNSでの不適切な発信に厳しい風潮もある。今回の判決でも繰り返し「(岡口氏が)傷つけるつもりはなかったとしても、結果として感情を傷つけた」と述べるなど、遺族らの心情に重きを置く結果となった。
 過去7件の罷免事案は買春などの犯罪や職務上の重大な不正の場合に限られた。それらに該当しないのに、政治家が裁判官に苛烈な懲罰を加えるのは疑問だ。
 表現行為で罷免された初のケースでもある。法学者からも「裁判官としての威信を著しく失うべき非行には該当しない」との趣旨の論文が多数、発表されてもいた。
 これでは憲法が裁判官に与える強固な身分保障も軽くなりかねない。大衆迎合的な乱用の恐れも出てくる。
 岡口氏は専門書を多数執筆し、積極的にSNSに投稿する、異彩を放つ裁判官だった。さまざまな社会問題を取り上げ、啓蒙(けいもう)的な投稿が目立った。社会の少数派に寄り添う市民派でもあった。
 今回の判決で、殻に閉じこもりがちな裁判官がさらに社会と隔絶した存在にならないか心配だ。
 差別発言さえ不問に付す政治の世界の人々が、一裁判官の表現の過ちを容赦なく叩(たた)き、法曹の資格まで奪う。裁判官がより政治の力に萎縮し、及び腰になっては三権分立さえも危うくなる。