国の「指示権」 地方自治侵害する恐れ(2024年4月4日『北海道新聞』-「社説」)

 大規模な災害や感染症まん延などの際、国が自治体に指示権を行使できる条項を盛り込んだ地方自治法の改正案が国会に提出された。月内にも議論が始まる。
 指示権は極めて問題が大きい。行使する要件はあいまいで、緊急時と限られてもいない。国会の承認も必要ない。恣意(しい)的に発動される懸念が拭えない。
 2000年の地方分権一括法の施行により、国と地方の関係は上下・主従ではなく、対等・協力に変わった。法案はこうした地方分権改革の流れに逆行する。
 地方の政治と行政は住民の意思に基づいて行い、国から独立した団体に委ねるという憲法が定める地方自治の本旨にもそぐわない。
 法改正の必要性はあるのか。
 新型コロナ禍の対応で国と自治体の連携に混乱があったとして、岸田文雄首相が一昨年、地方制度調査会(地制調)に諮問し、答申を受けて法案化された。
 ただコロナを巡っては、感染症法などが改正された。東日本大震災などを踏まえ、災害対策基本法も改正を重ねている。いずれも国の指示権が盛り込まれている。
 感染症や大災害はこうした個別法を強化して備えるのが筋だ。
 国は個別法で想定しない事態に対処するためだというが、非常時という反対しづらい状況を持ち出し、国の権限を強める意図が透ける。危ういというほかない。
 昨年12月の地制調総会には地方6団体の代表も出席した。全国知事会副会長の平井伸治鳥取県知事は指示権の容認について「棒を飲むようなこと」と述べたものの、答申には異を唱えなかった。
 国と地方の関係を定める法律の根幹に関わる改正だ。運用次第では廃止された国の指揮監督権が実質的に復活しかねない。
 総会では自民党衆院議員から、指示権を行使する要件を明確にするよう求める意見も出たが、法案には反映されていない。
 能登半島地震の復旧の遅れが指摘される。国からの一方的な指示ではなく、自治体と協働する重要性が浮かび上がる。
 指示権に国が固執する背景には、地方自治の軽視と統制強化の狙いがあるのではないか。沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設にしても、対等な立場で県と協議する姿勢がない。
 非常時の国の権限強化は、憲法に緊急事態条項を新設しようとする改憲の動きとも重なる。
 国家権力を監視し、住民本位の自治を守る覚悟が問われる。