新年度スタート(新社会人)に関する社説・コラム(2024年4月2日)

新社会人の君へ/柔軟な発想で社会に新風を(2024年4月2日『福島民友新聞』-「社説」)

 何事にも臆することなく挑戦し、長年にわたり社会に漂う閉塞(へいそく)感を打ち破る力になってほしい。

 日本経済はいま、大きな転換期を迎えている。1990年代前半のバブル崩壊以降、物価や賃金が上がらない状況が続いてきた。中国や韓国、インドなど周辺のアジア諸国が着実に経済成長を遂げた一方、日本経済の成長を実感できる機会は少なかった。

 しかし最近はエネルギー価格の上昇などで物価高が急速に進んでいる。原材料費の高騰分を販売価格に転嫁し、賃上げにも配慮する企業が増え始めた。企業業績の拡大とデフレ脱却の期待から、日経平均株価は先月、史上初めて4万円を超え、終値の最高値は更新される日が増えている。

 今春の新卒の初任給を大幅に引き上げた企業も多い。中小企業が大半の地方では、業績改善による賃上げは限定的だが、その機運は広がりつつある。停滞の時代が終わりを迎えようとするなか、皆さんは社会人生活の第一歩を踏み出した。明るい気持ちで前向きに仕事に向き合ってもらいたい。

 昨春の新入社員に「社会人として何を大切にしたいか」と尋ねた民間の調査結果がある。「必要なスキルや知識を身に付ける」「社会人としてのルール・マナーを身に付ける」と例年同様の項目が上位を占めた一方、「新しい発想や行動で職場に刺激を与えること」の選択率が過去最高になった。

 先輩社員と堅実に仕事を進めたいとの意識とともに、若手だからと遠慮せず、自発的に行動しようという若者が増えているようだ。

 日々進化を遂げる人工知能(AI)の活用など、経済環境は大きく変わっており、企業や社会は対応が迫られている。人口減少に伴う労働力不足のなか、企業などは効率性、生産性をどう高めていくかが課題だ。皆さんは生まれた時からデジタルが身近な「Z世代」である。柔軟で新しい発想力により磨きをかけ、社会に新風を吹き込むことを期待したい。

 皆さんは新型コロナウイルス禍の真っただ中で学生生活を送ってきた。学業以外にサークル活動や旅行、アルバイトなど、時間の制約が少ない学生の間に取り組めるさまざまな経験が思うようにできなかったという人もいるだろう。

 働き方改革で労働時間の短縮、特別休暇の取得推進などが進み、以前よりプライベートの時間を確保できるようになっている。

 人生100年の時代にあり、皆さんの長い旅はまだ始まったばかりだ。仕事以外にも多くのことに挑み、人生の糧としてほしい。

 

まねてはいけない(2024年4月2日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 人間国宝の十代目柳家小三治が、高座をこんなエピソードから始めたことがある。「いまだに師匠からちゃんと落語を習ったことがない」。ずっとそばにいるのだから、見て盗めということだったようだ。師匠の五代目小さんも人間国宝。この上ないお手本だ

▼自分の落語を初めて小さんに聞いてもらったのは、入門から4年たった頃。しぐさや間(ま)について何か言ってもらえるかと思っていたら、師匠は腕組みをしたまま「面白くねえな」。一言で終わってしまったという

小三治も教える側となって「だめだ。面白くない」で済ましていた。すると教えを請うてくる後輩が減っていった。「昔から申します。付け焼き刃は、はげやすい」。まねるだけではぼろが出るということらしい

▼実は、小さんは弟子の高座などを聞き、陰でアドバイスしていた。小三治もそれを知りつつ、面白おかしく客を引き込むために脚色したのだろう。ただまねるのではなく、なぜそうするのかまで理解しないとうまくいかないのは落語の世界に限ったことではあるまい

▼新社会人にはもう一つ。誰をまねるか、慎重に選ぶのが大切だ。例えば、何かやらかした時の言い逃れを国会中継で学ぶと、信頼を失う。

 

新年度スタート 働きやすい社会へ転換を(2024年4月2日『新潟日報』-「社説」)

 

 新年度が始まり、新社会人が第一歩を踏み出した。次代を担う若者が自分らしく健やかに生きていけるよう、働きやすく、働きがいを感じられる社会を目指したい。

 1日は各地で入社式、入庁式が行われた。各トップは「失敗を恐れずに」「前向きにチャレンジを」「先入観にとらわれないで」などと期待の言葉を述べた。

 新入社員は「高品質な商品を作りたい」「日本の魅力を発信したい」などと抱負を語った。

 今年入社した若者は多感な時期に新型コロナウイルス禍を体験し、リモート授業など多くの困難を乗り越えてきた。生まれたときからインターネット環境があり、スマートフォンを自在に使いこなす世代でもある。

 上の世代にはない感性、デジタル社会への対応力を思う存分発揮し、それぞれの職場を活性化させてもらいたい。

 受け入れる側には、今の時代に合わせた「アップデート」が求められる。過剰な長時間労働をなくす働き方改革は必須だ。

 過労を引き金に心身を病んだり、自ら命を絶ったりする痛ましい事態が繰り返されることがないように、ゆとりのある職場に変えていかなくてはならない。

 ワークライフバランスを実現できる職場づくりに努めたい。

 新社会人に働きがいを感じてもらうことも重要だろう。何ごともやりがいを感じることができなければ、継続するのは困難だ。

 仕事のやり方はもちろん、その目的や意義などを丁寧に伝える必要がある。コミュニケーションをよくすることが基本となる。

 国内の企業業績はおおむね堅調で、東京株式市場の日経平均株価は2月に約34年ぶりの史上最高値を付ける好調ぶりだ。

 一方で、同時に進む物価高で市民生活は苦しい。物やサービスの値上げは続いており、この4月もハムやウイスキーの価格、宅配便の料金などが上がる。

 物価の上昇に見合う賃金の上昇が必要であり、その好循環が生まれたときに初めて日本経済の回復が確かなものになる。

 大都市と地方の賃金格差の拡大は、地方の人口減少を進めかねない。地域活性化のため、県内の経営者にも賃上げに前向きに取り組んでもらいたい。利益を従業員に還元する、若者の働きに賃金で応える姿勢を重視してほしい。

 働き方改革を巡っては、1日から時間外労働の上限規制が自動車運転業や建設業、医師などにも導入された。

 労働環境の改善が期待されるが、一方で人手不足の深刻化により各種サービスが低下する「2024年問題」が懸念されている。

 市民生活や地域経済への影響を最小限にとどめるよう、国や地方自治体にはきめ細かい目配りと柔軟な対策を求めたい。