日米球界の経済格差 発展妨げる内向きの論理(2024年4月2日『福井新聞』-「論説」)

 野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本優勝に沸いた昨年に比べれば静かな春である。しかし、ファンの期待に応える熱いプレーをこれから見せてくれるだろう。

 プロ野球が開幕した。球界を代表する捕手となった中村悠平選手(ヤクルト)や、内野手として再スタートを切った栗原陵矢選手(ソフトバンク)らはもちろん、キャリアの浅い若手も含め、福井県勢の躍動が楽しみだ。

 米大リーグは、大谷翔平選手(ドジャース)の元通訳をめぐる違法賭博問題が大きな話題となる中、福井市出身の吉田正尚選手(レッドソックス)は2年目の開幕を迎えた。日本球界をけん引した山本由伸投手(ドジャース)は大型契約で移籍を実現し、昨年右肘を手術した大谷選手は今季、打者一本で勝負する。

 高いレベルでの戦いを求めて海を渡った選手の活躍は願ってやまない。ただ、眼前に突きつけられる日米球界の格差には嘆息するばかりである。

 米経済誌フォーブス(電子版)によると、大リーグ30球団で最も資産価値が高いのはヤンキースで、前年比6%増の75億5千万ドル(約1兆1430億円)という。30球団平均は24億ドル(約3630億円)に上り、最下位のマーリンズですら10億ドル(約1510億円)もある。プロ野球の球団では、最高でも約1000億円超とみられる。単純比較はできないもののマーリンズにも及ばない。

 約30年前、プロ野球と大リーグの市場規模はともに1500億~1600億円程度とみられていた。しかし、プロ野球が伸び悩むのに対し、大リーグは現在1兆円を優に超えるとされる。実に7倍もの開きだ。

 日本経済の停滞が格差拡大の要因だとしても、球界内部にも課題はある。入場料やグッズ販売、放映権といった収入の柱に関して、日本は球団が主導権を握っている。一方、米大リーグ機構(MLB)は全米ネットワークの放映権料やチケット販売などの一部を管理し、全球団に分配する仕組みを取っている。収益構造からも、球界全体を発展させようとの狙いが米国には見てとれる。

 30球団からなる大リーグは32球団への拡張を目指していると聞く。プロ野球は今季、2球団が2軍に新規加入したが、2軍限定で日本野球機構(NPB)に1軍を広げる考えはない。

 大谷選手が全国の小学校にグローブを贈り、野球への関心を高める努力をしているが、一個人の気持ちに頼ってはいられない。内向きの日本球界の収益構造と仕組みに目を向けなければ国民的スポーツの未来は縮んでいくばかりに思える。