日銀がマイナス金利政策を解除した。
賃金と物価がともに上がる「好循環」が強まり、2%の物価上昇目標の持続的・安定的な実現が見通せたと判断した。長引くデフレで「物価も賃金も上がらない」と思い込み、縮小均衡のコストカット型に陥った日本経済。「失われた30年」と呼ばれる長期停滞に幕を引き、活力を取り戻せるか、正念場を迎えている。
日銀が政策転換に際し、重要な判断材料としたのが2024年春闘の賃上げ動向だ。連合が15日公表した回答の第1回集計によると、平均賃上げ率は5.28%と前年同時点の3.80%を大きく上回った。日銀の植田和男総裁は19日の記者会見で「幅広い企業で賃上げの動きが続いている」との見方を示した。
バブル崩壊後、内需が落ち込み、企業は投資と人件費を抑えるリストラを進め、できるだけ安くモノやサービスを提供することに専念。経済を引っ張る個人消費は活気づかず、日本経済は物価も賃金もますます上がらない「負のスパイラル(連鎖)」に陥った。平均賃金は約30年にわたって伸び悩み、14年には物価水準を考慮した購買力平価実質ベース(ドル建て)で韓国に抜かれた。
13年3月に日銀総裁に就任した黒田東彦氏は、2年で2%の物価上昇を目指し、国債を大量購入する「量的・質的金融緩和」を打ち出したが、10年間の任期中に目標を達成できなかった。同氏は23年4月の退任会見で、「賃金や物価が上がらないことを前提としたノルム(社会通念)が根強かった」と釈明。長年染み付いたデフレマインドの払拭は異次元緩和でも困難だった。
ノルムに変化が生じるきっかけとなったのは、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻に伴う供給ショックだ。海外発のエネルギー・食料価格高騰の波が日本にも押し寄せ、物価の上昇基調が鮮明になった。
今後は持続的な賃上げが適度な物価上昇につながる好循環の継続が焦点となる。企業に賃上げを強く迫るだけでは限界があり、労働生産性を向上させて日本経済全体の「パイ」を拡大する取り組みが不可欠だ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「収益改善が進んだ企業の投資を後押しする施策も必要だ」と指摘している。