春闘高額回答 中小の賃上げ、大手も協力を(2024年3月14日『中国新聞』-「社説」)

 今春闘はきのう、大企業の多くが労働組合の要求に回答した。満額回答が相次ぎ、賃上げの水準は30年ぶりの高さだった昨年を上回りそうだ。

 賃金相場に大きな影響力があるトヨタ自動車は過去最高水準の要求に満額で回答した。日立製作所パナソニックホールディングスなど多くが満額で、労組の要求を超えた社もあった。円安などによる好業績に加え、人手不足が深刻になる中で人材を確保する狙いもあろう。

 今年はいち早く回答する企業も多く、マツダは2月下旬、組合員平均で月1万6千円の満額回答を出した。2023年度は過去最高益を見込んでおり、人に投資する姿勢を示した形だ。

 経済政策の上でも今春闘は注目度が高い。政府は「デフレ脱却」を表明する検討に入ったとみられ、物価高に見合う賃上げが実現するかどうかを見極めようとしている。金融政策決定会合を来週開く日銀も、マイナス金利政策の解除を判断する材料にする構えだ。

 連合の各労組の賃上げ要求の平均は、30年ぶりに5%を超えた。経団連も「社会的責務」として賃上げに理解を示してきた。高水準の回答が相次ぎ、長年続いた賃金の低迷が転換しそうなことを歓迎したい。

 だが油断はできない。厚生労働省によると昨年は大手の春闘で3・6%の賃上げが達成されたにもかかわらず、労働者全体の給与の伸び率は1・2%にとどまった。物価の変動を考慮した実質賃金は減り続けており、国民の生活は厳しくなっている。総務省の調査では家庭に教育費など消費を切り詰める動きがある。

 鍵を握るのは中小企業だ。多くの人が賃上げの恩恵を受けられるようになるには、大企業の勢いを、従業員数で7割を占める中小に広げる必要がある。交渉はこれから本格化する。

 中小が賃上げの原資を得るには、取引先となる大企業の協力が欠かせない。原材料やエネルギーの費用に加え、適正な労務費を取引価格に反映させることが求められる。下請けへの支払いを不当に減らし、公正取引委員会から下請法違反で再発防止を勧告された日産自動車のように、優越的な立場の利用があってはならない。

 労務費を転嫁する交渉については、公取委が指針をまとめている。まず発注者の経営トップに労務費の上昇を受け入れる方針を打ち出すよう促している。受注者には最低賃金の上昇率などを賃上げの根拠にするよう勧める。希望価格を自ら示す方法もある。

 何よりも大事なのは、息の長い賃上げを実現することだ。物価高が一服しても、賃金の改善が続かないと豊かさは実感しにくい。賃上げを前提とした経営を定着させねばならない。日本経済を底上げすることで、大企業と取引のない事業者も成長を実感できる社会を目指したい。

 正社員に比べ賃金の水準が低い非正規労働者の待遇改善も大きな課題となる。労使で議論を深めてほしい。