踏切の点字指針 社会的弱者守る契機に(2024年4月2日『北海道新聞』-「社説」)

 視覚障害者の踏切事故を防ごうと、国土交通省が、道路のバリアフリー指針を改定した。点字ブロックの設置など踏切内の誘導表示の整備の位置づけを「望ましい」から「標準的」に格上げした。
 道路管理者である自治体などの積極的対応を促す狙いだ。社会的な弱者が安心して利用できる環境づくりの契機としたい。
 奈良県の踏切で視覚障害者が電車と接触し死亡した事故を受け、国は2年前にも指針を改めているが、今回と同様、整備の義務化は見送っていた。
 「標準的」な整備は義務に準ずるとはいえ、法的強制力は有していない。改定によってどの程度整備が進むかは未知数だ。
 国は指針改定に伴い、新たに408カ所の踏切を踏切道改良促進法に基づく「改良すべき踏切」に指定した。道内でも恵庭市道道の踏切が対策を求められている。
 改善状況の確認と利用実態の調査を踏まえ、さらに措置を講じる必要がないか、指針の見直しを不断に行うことが肝要だ。
 指針は駅のホームに設置されている黄色の点字ブロックのような白色のブロックを踏切内の歩道部分に敷き詰め、その両脇に黄色の線状の突起を設けるよう定めた。
 奈良県の死亡事故では被害者が踏切内にいるとわからずにはねられたとみられている。踏切内の点字ブロック設置で、一定の事故防止効果は期待できるだろう。
 全国で約3万2400カ所ある踏切内の歩道の大半は点字ブロックがない。国の指定を待たずに改善に取り組みたい。
 視覚障害者の踏切死亡事故は長野県や静岡県でも起きている。可能な限り迂回(うかい)する方法もあろうが、道路事情や周辺の環境によっては踏切を利用せざるを得ないことを忘れてはなるまい。
 国は踏切内の整備費用の一部を補助の対象とする方針だが、狭い幅員など形状によって、費用が膨らむ可能性もある。積雪地では点字ブロックが雪で覆われないようにする配慮が不可欠だ。
 整備を主導する主体が道路管理者である自治体か、鉄道事業者であるかの法的定めもない。当事者協議を促す工夫が欠かせない。
 踏切の使用に不安を覚えるのは視覚障害者に限らない。車いす利用者や高齢者を含めて誰もが安心できる環境整備こそ、バリアフリー化を掲げる国の責務である。
 駅のホーム柵の設置などと併せて幅広い施策に取り組むことで社会的弱者の安全を守りたい。

 

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踏切内に点字ブロック、国の指針で設置を「標準的」に引き上げ…全盲女性の死亡事故で改定(2024年4月1日『読売新聞』) 

 国土交通省は15日、踏切内に点字ブロック設置を進めるため「道路のバリアフリーに関する指針」を改定した。設置について「望ましい」から、積極的な対応を求める「標準的」に引き上げて、これまで指針で定めていなかった設置方法やブロックの形状も示した。

 改定は、2022年4月に奈良県大和郡山市点字ブロックのなかった踏切の中で、全盲女性(当時50歳)が列車にはねられ死亡した事故を受けたもの。

 国交省は同年6月に指針を改定し、従来は明記されていなかった踏切内の点字ブロック設置について、設置が「望ましい」と記載した上で、さらに踏み込んだ対応について当事者団体などと協議していた。