地価上昇の地域 持続可能なまちづくりを(2024年4月1日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナの混乱が落ち着き、経済活動が活発になってきた証しの一つと言っていい。

 国土交通省が発表した公示地価が上昇傾向にある。

 住宅地や商業地などの全用途平均は前年から2・3%伸びた。3年連続の上昇で、伸び率が2%を超えるのは、二桁台だったバブル期以来、33年ぶりという。

 地方では、限られた地域の突出ぶりが目立つ。

 円安を背景とした訪日外国人の増加と投資熱、マンション需要が後押しする市街地の再開発、半導体工場などの企業誘致が盛んなところである。

 過疎や自然災害などで下落が続く地域もあるなか、県内では、スノーリゾートとして知られる白馬村野沢温泉村の伸び率が際立つ。白馬村は商業地で全国4位の30・2%も伸びた。

 海外資本などによる観光開発や、富裕層、外国人による別荘地、保養地としての需要の高まりが共通している。

 90年代までのスキーブームが去って長らく低迷していた観光産業が息を吹き返し、空き物件が埋まり、古い設備の更新も進む。歓迎すべき状況ではある。

 ただ、あまりに急な上昇は暮らしの場に副作用ももたらす。

 不動産価格が上がって、野沢温泉村では移住希望者らが購入できなかったり、物件が見つからなかったりする問題が起きている。白馬村でも供給が追いつかず、子育て世代などが住める物件の不足が危ぶまれている。

 人気の温泉街や別荘地といった地域内の一部に投資が偏っている現状も見受けられる。ちぐはぐな開発が進んで、その土地ならではの景観や風致といった魅力を損なわないようにしたい。

 これらの地域の「売り」となっている上質で安定した雪質も、地球温暖化で維持し続けられるか不安視されている。訪日外国人のブームが去ったらゴーストタウンにならないか―。そう心配する住民の声も報じられている。

 野沢温泉村は地元向けの集合住宅の建設に乗り出した。そうした当面の対策に加えて、旺盛な経済活動に、中長期的なまちづくりの視点をどう組み合わせていくかが問われる。

 全体の人口減少が進むなかで、持続可能な地域をつくっていくにはどんな手だてが必要か。資力のある人々や企業の活力を取り込みながら、この先も地域に住み、働くさまざまな当事者がともに考える場が求められる。