地価の上昇が続いている。経済活動の回復と訪日客の増加が押し上げた。
実需に基づく上昇なら、新たな投資や消費の拡大が期待できる。好循環を持続できるかに着目したい。
国土交通省が発表した公示地価(1月1日時点)は、全用途の全国平均が前年を2・3%上回った。3年連続の上昇で、バブル期の1991年以来の高い伸びである。
地価は経済活力のバロメーターといわれる。今回の結果で新型コロナウイルス禍の落ち込みを脱し、デフレ脱却に向けて再起動する日本経済の姿が鮮明になった。
半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)の工場が進出した熊本県菊陽町と周辺はその典型だ。半導体関連企業の進出計画が相次ぎ、第2工場の建設を見越して地価が大幅に上昇した。取引先企業の進出など、影響は九州各地に波及している。
九州各県の住宅地と商業地の変動率は、上げ幅を広げるか、下げ幅を縮小した。
目立つのは福岡県の地価上昇だ。都道府県別で住宅地の上げ幅は沖縄に次ぐ2位、商業地は4年連続でトップだ。
それを引っ張るのは人口の増加が続く福岡市である。変動率は住宅地9・6%、商業地12・6%で、いずれも県庁所在地で最も高かった。再開発促進策の天神ビッグバン、博多コネクティッドが追い風になっている。
福岡市の住宅地平均価格はピークだった1992年を上回った。東京23区、大阪、名古屋、札幌、仙台、広島、福岡の主要都市で唯一、バブル期の価格を超える。
福岡市中央区大濠の県内最高価格の住宅地は17・5%上昇した。高級賃貸マンション用地の引き合いが増え、地価や建築費の先高観から一戸建て用地も活況になっている。市場は過熱感が強い。
テナント集めに苦労した新築ビルを外資系ファンドが高値で取得したケースもある。世界的な「カネ余り」が地価上昇を支えている面がある。
値上がりを見越した価格形成なら、景気や金利の動きによって下落に転じる恐れもある。警戒が必要だ。
九州は福岡県豊前市や長崎県島原市のように、地価の下落に歯止めがかからない自治体が少なくない。地価の二極化が顕著になっている。
2020年の熊本豪雨で被災した熊本県人吉市は、5地点全ての変動率がマイナスだった。鉄橋が流されたJR肥薩線は運転再開の見通しが立たず、地域の復旧、復興は途上である。
能登半島にある石川県珠洲(すず)市や羽咋(はくい)市の住宅地、商業地は下落率が全国10位内に入った。今年の元日に発生した地震の影響は来年の調査に反映されることになる。
地価は人口の増減のほか、自然災害にも大きな影響を受ける。防災対策を進め、安心して暮らせる地域づくりに努めることも肝要だ。